19章:かみまい!(10)
ウカはオレ達が近づくのを道の真ん中でじっと待っている。
いつの間にか周囲に人影はない。
ヴァリアントの人払い効果か。
オレ達はウカと話ができる距離まで黙って歩いた。
「何か用?」
双葉が警戒心全開で静かに問う。
「ヴァリアントが人間の前で正体を現すのは、本来一つしか理由はない」
その抑揚のない声音とは裏腹に、ウカの瞳には決意が見てとれた。
彼女の言う「一つ」とは食事のことだろう。
だが本当にそうなのだとしたら、わざわざオレ達を狙う理由はない。
何があったか知らないが、戦いにきたのだ。
「あたしがあなたの父親を奪ったって怒ってるの?」
「何を言っているのかわからない」
ウカに動揺は見られない。
本当にわかっていないのか?
それとも挑発している?
双葉のことを「姉さん」と呼んでみせた以上、双葉の言葉を理解はしているはずだが。
「まあいいや。あたしも興味ないし」
双葉は家電量販店の紙袋をそっと地面に置くと、コートのポケットから呪符を取り出した。
オレが護身用に持たせたものだ。
「さすが姉妹。意見が合う」
ウカの体から殺気が溢れる。
双葉が神域絶界を展開するのと、ウカがつっこんで来るのは同時だった。
オレは黒刃の剣を取り出しつつ、二人の間に入る。
――ガキン!
ウカの拳とオレの剣が、固い音を立てて弾き合う。
彼女の手には、侍が使うような籠手がつけられていた。
オレの剣に斬られないのだから、ただの籠手なはずがない。
ウカの振り下ろした拳が轟音を立てて地面に突き刺さる。
半径1メートルほどのクレーターができると同時に、砂のようになったアスファルトの粒子が巻き上がった。
普通に力で殴ったのであれば、ひび割れるか砕けるだろう。
「マンガを参考にし、身につけた私の技。これならばナンバカズ、貴様を倒せるはずだ。1撃目で物体の抵抗をなくし、2撃目で粉砕する。いかに貴様の体が強固だろうと、この技には耐えられまい!」
破壊の極みかよ!
「アッー! とか叫びながら撃たなくていいのか?」
「何をいっているんだ?」
このネタ流行ったのってもっと後だったか。
いや、流行った後だからってウカが知ってるとは思えないけども。
「今の技、対象を魔力で分解しただけだろ」
しかも、高速の2連撃ではあったものの、魔力がこもっていたのは1撃目だけ。
1撃目で粒子になったアスファルトが、2撃目で舞い上がったのだ。
「そ、そんなことはない! これは修行によって会得した奥義なのだ!」
本気で言っているようだ。
となると、魔力の扱いは無意識か。
結果を強くイメージしたせいで、魔法として発動したようだ。
基礎も学ばずに自力で魔法を開発とは天才か?
だが――。
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