18章:クリスマスの夜と言えば空を飛んでリングを取る(8)
暖炉から現れたのは、でっぷりした腹に白い髭、そして赤いコスチュームという、サンタのイメージそのままの存在だった。
違うといえば、口元の髭が赤黒く染まっていることだ。
「これはさすがに由依の企画じゃないよな」
「ええ、招かれざる客ってヤツね」
由依は頷きながら、神器を発動させた。
白いネグリジェからすらりと伸びた黒タイツに、魔力が集中していく。
「サンタってヴァリアントだったの……?」
双葉はすぐさま神域絶界を展開。
この広間だけを通常空間から隔離した。
ナイス判断だ。
「美味そうな匂いにつられてきてみれば……ずいぶんと面倒そうな人間がいるもんだわい」
優しそうに微笑むサンタだが、口の中には鋭い牙がびっしり生えている。
口から漂うのは血の臭いだ。
「子供にプレゼントを配るのが仕事じゃないのかよ」
「かつてはそうだったなあ。今思うと、なんであんなごちそうを前にプレゼントを置いて帰るなんてマネをしてたのかねえ」
おっとりとした口調ながらも、殺気はビンビンに伝わってくる。
生前は良いサンタだったのかもしれないが、今はただのヴァリアントだ。
たしか北欧に公式のサンタがいたはずだが、あれは人間である。
こちらは、伝承のもととなった人外の能力を持つサンタクロースだろう。
「サンタのヴァリアントがいるってことは、本当にサンタクロースっていたんだ……」
少し嬉しそうな由依である。
「目の前にいるのは、そこそこ強いヴァリアントだ。気をつけろよ」
「わかってる」
結界を維持するため、双葉を下がらせ、黒刃の剣を出現させる。
「ここの敷地には強力な結界が張ってあったはずだが、どうやって抜けてきたんだ?」
かつてこの結界を破ったヴァリアントは、けたたましい音をたてていた。
オレにいっさい気付かれず進入することなど不可能なはずだ。
「今夜だけは特別でね。子供の夢を叶えるためなら力がでるのさ」
期間限定での能力か。
おそらく、煙突も瞬間移動の条件に含まれているだろう。
普段なら使いにくいことこの上ない。
「白々しいやつめ。子供を喰うため、の間違いだろ」
「そうだな。お前らみたいな子供をな!」
白い袋を振りかぶったサンタがこちらに向かって突進してきた。
「高校生を子供扱いとは、ずいぶん年寄りだな!」
オレと由依の間に振り下ろされた袋を、左右に跳んで避ける。
異様に重たい音を立てた袋による一撃が、石造りの床を砕いた。
「ほう! 速いな!」
続いて横薙ぎに振られた袋がオレに迫る。
半歩下がるだけで避けられるが、オレはスライディングの要領で袋の下をくぐった。
三倍ほどの長さに伸びた袋が、オレの立っていた場所を越え、壁を削り取る。
そんな気はしたが、伸縮自在かよ!
オレは立ち上がりざま、サンタに向かって切り上げた。
老体とは思えない素早さで、その一撃は避けられる。
しかし、それも計算のうちだ。
サンタが避けた方には、既に由依による全力の蹴りが待ち構えていた。
体をくの字に折られたサンタは、暖炉の中へと蹴り飛ばされた。
さらにオレが魔法でその体を焼き尽くす。
紫色の煙が煙突から上っていることだろう。
「環境に悪そうな薪だ」
「どうせならもっとかわいい色だったらよかったのにね」
それもどうかと思うが。
双葉が神域絶界を解くと、窓の外にはパイプを銜えた筋肉むきむきの人型トナカイがソリにすわっていた。
なんだあれ?
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