17章:美女とヴァリアント(20)
SIDE カズ
少女を保護するため、魔力を追ってきた森の中で見たのは、スィアチが少女を喰っている光景だった。
彼女に手は出さないと思っていたが、オレの勘がハズレた?
いや――
「こいつっ!」
気色ばむ由依を手で制し、周囲を観察する。
戦いの形跡、ヴァリアントが倒された魔力の残滓……。
そうか……。
こいつは、少女のために怒ったのか。
スィアチはオレ達に気付いているだろうに、こちらに背中を向けたまま、少女の死体を貪っている。
なぜかその背中はとても小さく見えた。
たしかにアンタは他のヴァリアントとは少し違うみたいだ。
だが、このまま見逃すことは絶対にできない。
オレは黒刃の剣を取り出すと、スィアチの背後に立ち、その首を撥ねた。
ごろりと地面に転がった首がこちらを向く。
それが紫色の煙となって消える直前、その顔は泣いているようにも見えた。
◇ ◆ ◇
スィアチを倒してから一週間。
街はすっかり平穏を取り戻していた。
マスコミもブギーマン事件などなかったかのように、ワールドカップ初出場のニュースに湧いている。
居間のテレビからは、どのチャンネルもそんなお祭り騒ぎが流れてくる。
オレは由依と並んでソファに座り、ぼーっとブラウン管を眺めていた。
今でもスィアチの最後の顔を思い出す。
殺したことに後悔はない。
あいつは、これからも気軽に人を殺して回っただろう。
だが「共存する道があったかも」なんていう甘い考えが頭をよぎってしまう。
「無理だったよ」
由依がそっとオレの手を握った。
「カズはこれから殺されるはずの多くの人を救った。それでいいと思う」
「顔にでてたか?」
「ううん。でも、わかるよ。幼馴染だもん」
「そうか」
「そうだよ」
由依がそっとオレの頭を胸に抱き寄せた。
今はこの温かさと柔らかさに甘えてしまおう。
そして、今夜はこっそり練習していた料理でも振る舞おう。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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