17章:美女とヴァリアント(16)
SIDE カズ
デモ会場に現れた怪しい男を、オレと由依は追っていた。
双葉はデモ会場に置いてきた。
あちらで何かあったら連絡をもらう手はずになっている。
念のため、美海にも双葉と合流するよう頼んでおいた。
時には路地を、時にはビルの屋上を、時には人気のない山を駆ける。
関東平野を2周ほどしただろうか。
この追いかけっこももうすぐ丸一日になる。
「あれがスィアチなの?」
途中のコンビニであんパンと牛乳を買って合流した由依が訊いてきた。
「わからないが、これだけ無目的に逃げ続けているところをみると、少なくともヒミコの部下じゃないはずだ」
もしそうであれば、オレに何か弁明するか、ヒミコの他の部隊と合流などしているだろう。
この時点で、スィアチである可能性が極めて高い。
「じゃあ倒してしまってもいいんじゃない?」
「オレもそうは思うんだがな、ちょっと動きが気になるんだ」
「どういうこと?」
「なんでこんなに長い時間逃げ続けてるのかってな」
「そういえばそうね。逃げ切れないのはわかったでしょうし、それなら一か八か襲いかかってきそうなものだけど……。時間稼ぎをしてるとか?」
「オレもそう考えたんだけど、どうにも違う感じなんだよなあ」
オレ達のことを観察してる感じさえする。
かといって、オレ達をどこかへ誘き出そうとしている風でもない。
これまでのヴァリアントと行動が違いすぎる。
目的も感情もわからない。
単独で行動しているようだし、倒してしまってもよいか?
そう思った矢先、ヴァリアントが突然進路を変えた。
これまでは蛇行したり、円を描くように動いていたのだが、真っ直ぐ走り出したのだ。
付いてこいといわんばかりだが……罠か?
いまさら?
やはり時間かせぎだった?
疑問はつきないが、ヴァリアントの後を追った。
◇ ◆ ◇
ヴァリアントが足を止めたのは、とある別荘地にある高級住宅だった。
季節を外せば人は少なく、快適に暮らすこともできる。
潜伏するには、廃ビルよりよほどよい場所だ。
この頃はセキュリティ業者を使っていない家も未来より少なかったはずだしな。
ヴァリアントは屋敷の庭に着地するや、中へとかけこんでいった。
鬼ごっこの最中は余裕さえあったのに、今はなぜか慌てた様子だ。
まるで途中で忘れ物を思い出して取りに帰ったときのようである。
オレは念のため屋敷の中を透視する。
結界などは張られておらず、罠もないように見える。
ただ、視線を赤外線センサーに切り替えてみると、中に人間一人分の熱源反応があった。
「誰かいるな」
「仲間かな?」
「わからん」
人間かどうかもな。
ヴァリアントが出てくる気配はない。
どうやら中にいた人物の近くにいるようだ。
罠だったとしても、ここでこうしていても仕方が無い。
もう一人が人間だった場合、屋敷ごと爆破するわけにもいかない。
「入るぞ」
オレの声に、由依は無言で頷いた。
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