17章:美女とヴァリアント(12) SIDE スィアチ
SIDE スィアチ
「でもでも、恋をした相手には、『欲しい』だけではなく、与えてあげたいとも思うらしいです」
「どういうことだ? それで自分に利があるのか?」
「よくわかりませんけど、そういう気持ちになるみたいですよ」
さっぱりわからんぞ。
「じゃあお前はオレに喰われたら幸せを感じるか?」
「くわ……え……? 王子様に?」
「王子様?」
なぜそこで嬉しそうに頬を染めるのか。
もしかして、オレのことを言っているのか?
「な、なんでもないです……。そういうのとは、一生縁がないと思ってたんですけど……でもでも……やっぱりそういうのは愛を誓い合ってからで……」
「なぜ喰うのにそんなものが必要なんだ」
「だめですよ、無理矢理は」
「なぜだ。お前達だって、動物を無理矢理喰うだろう」
「動物……? うーん……なるほど。やっぱり、食事と恋は違うかもしれませんね」
「どういうことだ?」
「食事は食べたら自分の血肉にはなってくれますが、相手はいなくなっちゃうじゃないですか」
「そりゃそうだ」
「でも恋は違うんです。相手への好きがどんどん増えていくんですよ。きっと……」
「よくわからんな」
「私もです」
結局、結論は出ないままだ。
よくわからない者どうしで話しているのだからそりゃそうだろう。
ゲームの電源を落とすと、テレビからニュースが目に飛び込んできた。
ブギーマンとやらを崇めるデモが行われているらしい。
このブギーマンって、もしかしてオレか?
ふむふむ。
人間もだんだんわかってきたな。
なにやら政治的な内容に目的がすり替わっているが、オレに注目しているならよい。
殺して忘れられるなら、半殺しにするのはどうだろうと考えていたが、それを試すまでもなさそうだ。
ふふふ……いいぞ……オレを見つけてくれ。
「このゲーム、マルチエンディングみたいですよ」
少女が説明書をなぞり、そんなことを言った。
「読めるのか?」
「点字が書かれているみたいです。このゲームを作った人は、私みたいに目の見えない人のことを考えてくれてたんですね」
点字というのがなんなのかは知らないが、盲目の人間にも読める字らしい。
説明書をよく見ると、たしかに膨らんだ点が打ってかる。
これが文字のかわりなのだろうか。
「そんなことをして売れるのか?」
「どうなんでしょうか。盲目の人がどれくらいいるかはわかりませんが、それですごく売れるなんてことはないと思いますけど」
「じゃあなんのためにやってるんだ? 人間は金を欲しがるもんだろ」
「盲目の人にもプレイしてほしかったと書いてますね」
「理解できんな」
「善意というものだと思います」
「それも恋や食欲と同じか?」
「どうなんでしょう……。違うと思いますよ。たぶんですけど……」
少女はぴょこんと首を傾げた。
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