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17章:美女とヴァリアント(11) SIDE スィアチ

SIDE スィアチ


 今度攫ってきたのは、白い杖をついて歩いていた少女だ。

 ステッキ仲間だと思って選んだのだが、どうやら彼女は目が見えないらしい。


 少女は高級ソファーに座り、やや怯えながらも虚空を見つめている。

 いや目は閉じているのだが。


 歳は10代中盤くらいだろうか。

 化粧などはしておらず、飾り物もつけていない。

 目が見えないこと以外は健康で美味しそうな普通の少女だ。


 別荘地にもなっている郊外の高級住宅街の朝はとても静かだ。

 そんなうちの一軒を勝手に使っている。

 廃ビルばかりでは飽きるし、攫ってきた人間もその方が気を許すかと思ったが、見えないのでは効果も半減だ。


 この家は電気が使えるので、ゲーム機を用意してみた。

 何本かソフトを拝借してきた中に、音だけで楽しむというものが混ざっていた。

 『アンリアルサウンド ―防爆のパッション―』というタイトルだ。

 映像がなく、音声だけのドラマが展開するゲームのようだ。

 選ぶ選択肢によってストーリーが分岐するらしい。


「やってみろ」


 オレは少女にコントローラーを持たせると、ソファーに腰掛けた。


「なんですかこれは?」

「人間のくせにゲームを知らないのか」


 オレの問いに少女は、ただ首を傾げるだけだ。

 生まれたときから目が見えないのだとすると当然か。

 

「そいつで操作して遊ぶらしい」


 オレもそれ以上は知らない。

 説明書の図を見ながら、本体のセッティングがかろうじてできた程度だ。

 なんでオレがこんな準備を……と思うが、これまでの人間と違って怯えて叫んだりしない褒美だとでも思っておく。


 少女はコントローラーを指先でなぞり、試しにボタンを押してみる。

 どうやらコントローラーで、テレビのスピーカーから流れる音声ドラマを操作するものだと理解したらしい。


 ドラマの内容は、10年ぶりに再会した初恋どうしの幼馴染が、様々な爆発の中、生き残っていくというものだ。

 何が面白いのかさっぱりわからない。

 そもそもオレ達ヴァリアントは、食欲以外の感情が希薄にできているらしいが。


 ドラマはたっぷり4時間はあった。

 もう昼をすぎている。


 最後まで聞いていたが、やはり何が面白いのか思わなかった。

 しかし、少女はその何も見えないはずの目から涙を流している。

 人間には感動する話だったのだろう。


 たしかに、ずっと孤独に過ごしていた2人が、爆発を通してお互いの寂しさを埋めていく様には、共感しないこともなかった。

 人間なんかの感情と比べるのは腹立たしいが。


「おい、『恋』ってなんだ。食欲とどう違うんだ」


 オレの問いに少女は首を傾げた。


「私もしたことありませんが……。ドラマなんかだと、相手をどうしようもなく欲しいってなるみたいなので……同じなんですかね?」


 なんとも頼りない答えだ。


「じゃあオレはお前に恋してるということになるのか」


 これほど美味しそうな人間もなかなかいない。


「ふえっ!?」


 少女はぼんっと顔を赤く染めた。



ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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