16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(29)
司祭達への命令や服装からして、彼がここのトップなのだろう。
「なんであんた達みたいな偉い連中は、そうすぐ人を使い捨てるんだよ……。偉くなったらそうなるのか? それとも、そうじゃなきゃ偉くなれないのか?」
ブラックリーマン時代のこと、異世界でのこと、色々なできごとが頭を巡る。
ここに来たのは、システィーナやオレ達に手を出さないよう、声の主と契約をするためだった。
だが、そんななまっちょろいことで済ます気にはとてもならなくなった。
オレは結界で包んだ『核』を老人の前につきだした。
「『核』を結界で安定化させられる人間がいるとはな……」
老人は興味深そうに『核』を見つめている。
と言っても、形状を認識できてはいないだろうが。
さすがの老人にも、その表情の奥にかすかな恐怖が見て取れる。
「あんたにはシスティーナと同じ想いを味わってもらう」
「なに……?」
オレが『核』を老人の胸に近づけると、彼は一歩下がった。
しかし、背後は壁だ。
逃げ場などない。
「私はこんなところで終わってよい人間ではない!」
「そうなんだろうな。詳しくは知らないが、急死すると困る人間がたくさんいるんだろう?」
「そ、そうだ。私が止めている戦争もたくさんある! 私が死ねば多くの罪なき民達の命が失われることになるぞ!」
「どの口が命を語る」
「私は多くの命を預かる身。より多くの命のために動くのは当然のこと」
「それがあんたの正義か」
「そうだ。そして世界の正義だ」
「あんたはそれを信じればいいさ。だが、『今の』オレの正義とは違う」
そういうのは、異世界ですませてきたんだ。
「なに?」
老人が気色ばむ。
「あんたの正義がオレの周りを脅かすというなら、オレにとってあんたは悪だ」
「悪……だと……? 私を悪と呼ぶか小僧!」
老人が怒鳴ると同時に、身につけていた法衣が輝きだした。
やはり法衣自体が神器か。
「受けよ! 我が正義!」
「どこかの大国みたいなことを言うんだな」
「アレと一緒にするな! 我が正義は利益を求めぬ正義である!」
「オレからすれば一緒だよ。悪いとは言わないがな」
「生意気を抜かす! 受けよ! 我が信徒の祈りを力に変えて!」
法衣の魔力が高まると同時に、地鳴りが響く。
こんな狭い場所で何をする気だよ!
たしかに半端ない量の魔力だ。
言うだけのことはある。
「堕天使を10体まとめて屠るこの法衣の力、とくと見――」
だがオレは老人のたわごとを遮って、彼のみぞおちに拳をめり込ませた。
法衣による抵抗があったが、神器の能力ごとぶち抜いてやった。
老人はどさりと床に倒れ、法衣は能力を発揮せぬまま粉々に砕け散った。
じーさんのパンイチという誰も見たくないもののできあがりである。
オレは老人を仰向けにすると、その胸に爪の先程の大きさに圧縮した『核』の入った結界を押しつけた。
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