16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(9)
横薙に振るわれた銀の髪は、刃物よりも鋭利に、堕天使の脇腹にめり込んだ。
「ギャギャア!」
それをものともせず、堕天使は槍を繰り出す。
「硬いなあ」
槍に浅く頬を切られたカルロは、反対側からも髪を振るう。
両側から挟み込まれた堕天使の胴体が耐えたのは一瞬。
上下に絶たれた堕天使の体が、どさりと地面に倒れ伏す。
「ギ……ギオオ……」
まだ動こうとする堕天使を見下ろしたカルロは、髪をさらに伸ばし、無数の針状に変化させた。
それを胴体の切り口に潜り込ませ、内部からぐちゃぐちゃに破壊する。
やがで堕天使は、紫の煙となって消えた。
さわやかな顔に似合わず、なかなかエグい攻撃だ。
「ボク達はよっぽど恨まれているみたいだね。こんなのじゃ相手にならないってわかってそうなものだけど。ただの嫌がらせかな?」
さらりとそう言うカルロの髪もまた、伸びた部分が虚空に消える。
『ボク達』というのは、組織のことだろうか?
組織の人間でも、単独でヴァリアントを倒せるのはごくわずかと聞く。
これまで出会ってきた組織の連中と比べても、遥かに高い実力を持っていそうだ。
もしかしてこいつが噂のバチカンナンバーワンか?
オレがじっとカルロを見ていると、彼がふいと視線を外した。
その先にいるのは、もう一体の堕天使だ。
カルロには敵わぬと知り、オレに向かって来ている。
悪いが、その判断は間違いだ。
オレは振り下ろされた堕天使の剣を無造作に掴むと、そのまま腹部に拳を一撃。
「グビギャア!」
悶える堕天使から剣を奪うと、そのまま全身を切り刻んだ。
ついでに肉片はしっかり焼いておく。
一体目を見る限り、再生能力は大したことないようだが、念の為というやつだ。
なお、奪った剣は、本体の死亡と同時に消えてなくなった。
「す、すごいな……。噂で聞くかぎりじゃ眉唾だと思っていたけど、ハーデースを倒したというのも、あながち嘘じゃなさそうだ」
カルロは心底驚いたようだ。
ただ、リアクションがどうにも芝居臭いんだよなあ。
イタリア人だからか?
日本の『組織』があんなであった以上、まだカルロが信用できる人物かはわからない。
だが、彼の実力を考えると、これくらいは見せておいてもいいだろうという判断ではあったが……。
お互い手の内はまだ見せずというところだ。
「カルロこそすごいじゃないか。髪を操る神器か?」
「いや、髪そのものが神器さ」
「え!? かつら!?」
その若さで!?
「失礼な。植毛だよ」
「いや、失礼の基準がさっぱりわからんわ。でも……とりあえずすまんかった」
「日本人がとりあえず謝るってのは本当なんだね。大丈夫、気にしてないよ」
さすがイタリア人はさわやかで口が上手い。(偏見)
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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