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15章:赤のフォーク(19)

 開発室の広さは、教室2つ分といったところだ。

 いまのところ、室内にいる職員は2人。

 果樹園の地下で見たポッドを卓上サイズにしたものが壁沿いの棚にずらりと並んでいる。

 優に100を越えるそれらの中には、マウスが入れられている。

 そのマウスは部位のサイズがおかしかったり、成体なのに小さかったりと、地下で見た人間と同じ様相だ。

 確かめるまでもなく、果樹園の地下で行われていたものの研究施設だろう。

 オレの記憶にある部品と同系統のものがいくつも見られる。

 それにしても……マウスでこの程度の成果のものを人間に使ってるのか。

 もともとまともに育てるつもりがないからこそできることだ。


 社内でもごく一部の人間しか知らない極秘プロジェクトらしい。

 予算は別部署からの組み換えで上手くごまかし、役員ですら知らない者もいるという。

 だからこそ、華鈴さんはここに目をつけた。

 中で何が行われているかは不明だが、あやしい部署があると。

 大当たりだ。


 もちろん、すぐにヴァリアント関係だとバレるようなことはしていないだろう。

 というより、職員も知らずに研究している可能性が高い。


 オレと美海は、開発室内で息をひそめ、職員達の行動を観察した。

 機材とPCの間を往復する職員を、部屋の隅でじっと見ているだけの簡単なお仕事だ。

 美海はオレの腕を抱き、何やらぶつぶつ言いながら発情し続けている。

 それが神器発動状態の維持に繋がっているので良いのだが……よくこんなに長時間発情してられるなあ。

 たまにオレのほっぺを舐めてきたりするので、思わずびくんと体が反応してしまう。




 時刻も22時をまわったころ、開発室に残る職員は一人になった。

 これまで、職員のPCを覗き見ていてわかったが、ここでは生まれたばかりのマウスを液体に浸けた状態での育成実験をしているようだ。

 与える刺激や、栄養素の種類や量などによって、寿命や肉体がどうなっていくのかを研究している。

 その他にも、胎児に直接栄養を送る方法などだ。

 この研究自体が非人道的かと言われれば、そんなことはない。

 それらしい理由があれば、世間にバレても直ちに糾弾されることにはならないだろう。

 だが、これだけ状況証拠がそろっているのだ。

 ここの研究が、果樹園の地下室に使われていたとみていいだろう。


 ここからどう調査を進めたものかと思案していると、開発室の電話が鳴った。

 一人残っていた男が電話を取る。


「もしもし。はい、そうですが……。え? どういうことです?」


 オレは聴力強化で、電話口の向こうの声も聞く。


『破壊されたらしい。跡形も無くな』


 TVでプライバシー保護のために使われるような変声機を通した甲高い声だ。

 この職員は、地下施設の関係者と繋がっているが、さほど重要な情報は持っていないかもな。


「六条グループの土地でそんな派手なマネを誰が……」

『それを知る必要はない。しばらく『苗』と『畑』の用意は中止する。むろん『肥料』の納品もだ』

「……金はもらえるんですよね?」

『次の『肥料』の納品の時にな』

「そんな! もう製造はじめちゃいましたよ! あれ1つ作るのに薬品の使用量をどれだけ誤魔化す必要があると――」

『払ってやってもいいぞ』

「ほんとですか!」

『私の胃袋に入るならな』


 それだけ言って、電話は切れた。


「くそっ!」


 職員の男は、受話器を叩きつけるようにして置いた。


 男はここでそれなりの立場にいるのだろう。

 これだけの施設だ。

 多少、用途不明の薬品が出たところで、担当者以外は気付きにくいだろう。

 そこでこの男は、研究成果をヴァリアントに売っていたというわけか。


 この男の処分については、華鈴さんに任せるとしよう。

 ネームプレートで名前もわかったので、報告しておけばしかるべき対処をしてくれるはずだ。


 さて、この小者を締め上げたところで、大した情報が得られるとも思えない。

 一気に王手といくか。




ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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