15章:赤のフォーク(16)
説明を終えたオレはちらりと華鈴さんを見た。
「かまいませんわ。大人の世界には汚いこともたくさんあることは承知しています。でもこれは度を超えすぎてますの。もし六条グループが最近ヴァリアントのことを知り、白鳥系に勝たんがためにこんなことに手を染めているなら、浄化する必要がありますわ」
「いいんだな」
「グループの立て直しなら私がするのでご心配なく。それに、こういった膿は今のうちにだしておいた方が、私がトップに立つのにも、立った後も有利ですわ。私をトップにしたくない派閥の弱みを握るという意味でもね」
華鈴さんの立場も、グループ内ではまだ微妙ということか。
高校生なのだから当然とも言える。
なんなら情報を握っているうちにごたついてくれた方が、周囲を出し抜けるという判断だろう。
「高校生とは思えない思考だな」
「あら、これを理解できる貴男も同じではなくて? ますます夫にふさわしいと思えますわ」
「結婚の話はおいといて! どっちから攻めるの?」
華鈴さんをキッと睨みつけながら、由依が割り込んできた。
そんな由依を見た華鈴さんは、やっとライバルとして認識してくれたと、少し嬉しそうだ。
「赤ん坊は手がかりゼロだからなあ……。華鈴さん、研究所の方はいけるか? 場合によっては調べるだけでも危険かもしれないが」
「お任せになって。これでもあちこちに顔はききますの」
「わかった。よろしく頼む」
「おやすいごようですわ」
そのフレーズをリアルで使ってる人、初めて見たぞ。
「それからヴァリアントについては――」
「絶対口外しないこと。ですわね? 身の安全のためにも、自分の未来のためにも」
さすがによくわかっている。
◇ ◆ ◇
その日の夜。
オレは果樹園の地下施設に一人、忍び込んでいた。
果樹園は華鈴により、厳重な立入禁止令が出され、園の維持に最低限必要な人員以外は休みを取らされている。
特に地下施設の周囲には、急造なからも赤外線センサーが設置された。
オレは赤外線を『見て』、それに触れないよう、地下施設に侵入した。
低い駆動音が響く闇の中、ポッドの中で、たまに人影が蠢く。
ポッドの蓋は上にあり、裏側からはしごを上ることで開くことがでかる。
オレは稼働し続けるポッドの蓋を一つ開けた。
中に入っている10歳くらいの女の子の首から上が出るところまで、中に入っている液体を抜く。
「う……あぁ……」
女の子は虚ろな目でただ呻いている。
言語を学んでいないから喋れないという感じではなさそうだ。
そもそも心が壊されている。
軽く皮膚をつついてみるも、なんの反応もない。
痛覚もだめか。
吐き気にも似た何かが、体の奥から湧き上がってくる。
オレはそのまま次々にポッドを開け、中を確かめていく。
結果は全て同じだった。
体のパーツのあちこちがアンバランスで、歪んだ成長をしている。
それは脳にも及んでいるのだろう。
きっと、今からまともに生きていくことは叶わない。
それどころか、ポッドから出てどれくらい生きていられるのかも。
ポッドの外で育ったであろう妊婦達も同じだった。
魔法を使っても意識を取り戻すことはなく、ポットの中でだけでかろうじて生かされている。
お腹の中を透視してみると、胎児達もポッドの中の子供達と同じ状態だ。
この施設をどうするかは、明日までに華鈴が決断するという。
だが、彼女にそんな重たい決断をさせたくはない。
冷泉さんの時は、彼女の性格や、何よりヴァリアントの能力もあって、本人が決断した方が良いと思った。
だが今回は違う。
救うことのできない、100を超える命を、それも本来自分には無関係なものをどうするかなんて、どう決断したとしても、トラウマにしかならないのだ。
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