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15章:赤のフォーク(13)

 オレ達4人はひとまず地下を出た。


 向かった先は彼女の事務所だ。

 4人が入るとやや手狭というところだが、普段は華鈴さんしか使わないのだろう。

 パイプイスの後にブドウジュースが全員の前に並ぶまで、華鈴さんは終始無言だった。

 何やら考え込んでいるようだが……。


「うん。何をどう考えてみても、さっぱりわかりませんわ」


 華鈴さんはぐびりとブドウジュースを飲んだ。


「さあ、説明してくださいまし」


 泳ぎっぱなしだった目をきりりと切り替えた華鈴さんの視線の先はオレだ。


「華鈴さんの身の安全のためにも、これから言うことは黙っていて欲しいんだけど――」




 オレはヴァリアントについて、簡単な説明をした。


「そんなバケモノがいるなんて……でも、見てしまいましたし……」


 華鈴さんは眉をひそめながら、じっと何かを思考している。


「もしかして……六条グループが政治になかなか介入できず、白鳥グループがずぶずぶなのは、ヴァリアントと関係がありますの?」


 めちゃくちゃ勘がいいなこの人。


「なんでそう思うんだ?」

「たしかに食べられてしまった人の記憶は消えるのかもしれませんが、ヴァリアントという存在の記憶全てを消しさるわけではないと思いますの。食べられた人との関係が薄かったのにヴァリアントを知ってしまったり、食べられたのに生き残っている者を見たりなど、色々な状況が考えられますわ」


 たったこれだけの情報でその可能性に行き着くのか。

 由依とはまた違った賢さだな。

 由依の場合は高い記憶力と短時間での高速処理能力に優れているが、華鈴さんは広い視野と情報を繋いでの推測が得意といったところか。

 それは華鈴さんが高校生でありながら、果樹園を経営できていることからもわかる。

 お嬢様という属性を持ちつつ、ライバルどうしでありながら、得意なことが違うというのはなかなか面白い。


「それであれば、政治家が誰もヴァリアントについて知らないとは考えにくいですわ。一時期を境に白鳥家が日本の政治中枢に一気にくいこんだのも納得がいきますの」


 それを聞いた由依は、悔しそうな、感心したような複雑な表情をしている。

 自分の方がヴァリアントについての情報を多くもっておきながら、こういった思考にならなかったことが悔しいのだろう。

 オレもそうだが、由依は指揮官というより現場タイプだからなあ。


「はぁ……驚くことばかりですわ……」


 気を張っている華鈴さんだが、やはり疲れが見える。

 そりゃああんなグロいものを見たのだ。当然だろう。

 これだけ平静を保っていられるだけでもすごいと言える。


「それで、私の果樹園の地下にあったあれはなんですの?」


 華鈴さんが最も気になるのはそこだろう。


「ヴァリアントが食料を生産するための工場……いや、奴らに言わせれば『畜産場』らしいな」

「そんな……」


 由依が小さく息を呑んだ。


「ヴァリアントが何体いるか知らないけど、あの数じゃ足りないんじゃないかなあ?」


 双葉の言うことももっともだ。

 あれほど手間のかかる設備をいくつも持っているなんてことがあるだろうか?

 そもそも、そうであれば街で人間を物色する必要などないのだ。


「オオゲツヒメは『果実で育てられた人間の肉は、やはり甘くて美味しい』と言っていた。ということは、地下にあったのは『嗜好品』だな」

「中国の都市伝説に『桃姫とうにゃん』というのがありましたわね……」


 華鈴さんが言ったのは、桃だけで育てられた女子のことだ。

 栄養不足で長生きできないが、良い匂いがし、その体液や肉体は薬用や不老長寿の果実としても扱われていたという。

 おぞましい話だが。



ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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