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15章:赤のフォーク(5)

 どちらが一番美味しそうな梨を見つけられるかという勝負を始めた由依と双葉はとりあえずおいといて、オレは果樹園の設備を見学させてもらっていた。

 そうして、見学を終えて戻ってきたのは、スタート地点のワイン工場だ。


 リーマン時代もそれほど酒を飲む方ではなかった。

 仕事で追い込まれて不眠症になった時に、Vtuberの晩酌配信に合わせて、マキシマムゼロを一人で煽る程度だ。

 ただでさえ会社に連泊したあとの短い睡眠時間にそんなことをしていたので、飲んだ後は悪夢ばかり見ていた記憶がある。


 それ以外だと、クライアントへの接待でバカみたいに飲まされたりな……。


 世に言う優雅なお酒というのを楽しんでみたいものだ。

 頭脳は大人でも体は高校生だからな。

 法律上はまだ飲酒はできない。


 オレが気になったのは、製品のサンプル置き場に飾られている3枚の絵だ。

 いずれも朝の果樹園が描かれている。

 絵の善し悪しなどわからないが、なぜか惹きつけられるのだ。


「あら、戻っていらしたのですね。工場見学はいかがでしたか?」


 ぼけっと絵を眺めていると、華鈴さんがやってきた。


「楽しませてもらいましたよ。由依達は?」

「まだ梨を吟味していますわ。付き合いきれなくて休憩です」

「あの二人のパワーはすごいですからね」

「全くですわ。あの二人、手を使わずに軽々と木を上ったりするんですもの。どういう運動神経なのかしら」


 棚からぶどうジュースを2本とった華鈴さんは、自らレジを操作し、支払いを済ませると、一本をオレに差し出した。


「どうぞ」

「ありがとうございます」

「そんなに畏まらなくて結構ですわ。同い年なのですし」

「わかった、そうさせてもらうよ」


 オレはぶどうジュースをグビリと飲んだ。


「美味いな」

「でしょう?」


 華鈴さんは嬉しそうに微笑んだ。


「真剣に経営をしてるんだな」

「もちろんですわ。でも……どうしてそう思いましたの?」

「自社の製品にちゃんとお金を払っていたし、製品に思い入れもあるみたいだしな。金だけ払って人任せじゃないんだなって」

「ふーん……目の付け所は悪くないみたいですわね。さすが由依さんの想い人ですわ」

「そりゃどーも」


 オレは再びぶどうジュースを口に含むと、再び絵に視線を向けた。


「その絵がどうかしまして?」

「不思議な魅力のある絵だなと思ってな」

「あら、絵の善し悪しがわかりますの?」

「いやさっぱり」

「でしょうね」

「どういう意味だよ」

「わかる方でしたらこの絵を褒めたりしないからですわ」


 平然とそう言う華鈴さんの表情からは、セリフの意図が読み取れない。

 バカにされたわけではなさそうだ。


「有名な絵じゃないってことか? オレはそのあたりの教養はないが、この絵はなぜか惹きつけられるんだよな」

「例えばどこにですの?」

「朝の果樹園に希望みたいなものを感じるんだよな。確かに朝の澄んだ空気って良いものだけど、ここまで綺麗な朝は見たことがない」


 こちらの世界で、オレにとって朝と言えば、出社前の憂鬱な時間だった。

 異世界では、夜の襲撃を乗り越え、一時的に休息を取れる時間だった。

 この絵から感じるのはそのどちらというと後者だ。

 オレの少ない語彙力で表現するなら――。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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