14章:ヴァリアントが見ている(11)
「由依、どうだった? なにかあったか?」
部活を終えたオレは、青井家の屋上に座る由依のとなりに降りた。
「あるようなないような……」
歯切れの悪い由依から、青井の部屋でおきた内容を聞いた。
ほぼ落ちかけた夕日に照らされた由依の横顔は悲哀に満ちている。
「二人のどちらでもなければ良いな」
「うん……」
小さく頷く由依だったが、その表情は暗い。
出会って二日目だが、青井とは気が合いそうだったからな。
由依のことをそれほど特別扱いしてこないというのもポイントなのかもしれない。
「今日も張り込みになると思って、晩ご飯作っておいたの。青井さんのキッチン借りちゃった。もちろん、材料は自分で買ったんだよ?」
他人の台所の食材を使い込んだなんて心配はしてないよ。
由依が用意してくれたのは、タッパーにつまったチキンソテーだった。
まだほんのりあったかい。
「おにぎりとスープもあるからね」
水筒に入ったコンソメスープは、オレ達につかの間の安らぎを与えてくれた。
いいもんだな。
次の張り込みはオレが何か作ってこよう。
当然ながら、そんな時間が長く続かないことはわかっていた。
二人で夕日の沈んだ山をぼんやり眺めていると、青井が家から出て来た。
顔色はとても悪い。
その手には、リビングで見た猫の入った籠が下げられている。
行き先は赤崎の家ではない。
「私が行く」
由依は家の屋根を音も無く渡りながら、青井をつけていった。
それからほどなくして、赤崎も家から出て来た。
その足取りはたよりなく、苦しそうに頭を押さえている。
ケガをしている風ではないが。
オレは由依がそうしたように、赤崎の後をつけた。
たどり着いた先は、住宅街の外れにある小さな林だった。
赤崎はガードレールを乗り越え、ふらふらと林の中に入って行く。
奥からは人の気配が一つ。
そして、少し離れたところに由依がいる。
ここで待ち合わせをしている?
なぜわざわざ外で……?
由依と合流したオレは、目で合図をしながら二人を追った。
林を50メートルほど進んだだろうか。
立ち止まった二人は、互いに神妙な面持ちで見つめ合っている。
恋人どうしの逢瀬であればいい。
というかその場合、オレ達はただの覗きだ。
そうであってほしい。
いや、覗きたいという意味ではなく。
だがそんな願いは打ち砕かれることとなる。
青井が籠から取り出した猫に、包丁を向けたのだ。
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