14章:ヴァリアントが見ている(10) SIDE 由依
SIDE 由依
青井さんのお見舞いに来た私は、キッチンを借りていた。
リビングにはお出かけ用の籠に入った猫がいる。
どこかへ連れて行くつもりだったのだろうか?
出してあげればよいのにとは思うが、私が口を出すコトではないだろう。
お見舞いと言いつつ、目的は監視だ。
青井さんも仮病だったようだけど、それを私に隠しているようだからお互い様かな。
ということで、自室で寝ている彼女に夕食を作っていたというわけだ。
「このおかゆおいしい! 白鳥さんて料理もできるのね」
青井さんはベッドの中で、私の作ったおかゆをばくばく食べている。
本人は風邪と言っていたわりに、元気いっぱいだ。嘘がつけない性格というのは好ましい。
「お嬢様だから何もできないなんて思われるのは癪じゃない?」
「そうなの! 箱入りはお手伝いさんに何もやってもらってるから、人参一本切れないなんて思い込んでる人たちがいるけど、こっちだって色々がんばってるんだぞってね。あら、言葉遣いが荒くなってしまいました」
青井さんは上品に口を手でおさえると、おどけて微笑んだ。
「いいなあ……。青井さんみたいな可愛らしさがあれば、赤崎君がメロメロなのも頷けますね」
「え……赤崎が私に……? そう見えます?」
青井さんが少し不安げに見つめてくる。
「あら意外ですね。お互い両思いだとわかっているのに踏み出せないだけかと思ってました」
「え? え? そう見えます?」
青井さんの顔がみるみる紅くなっていく。
「会ってその日にわかるくらいには」
「えー? 恥ずかしいです。そっかぁ……。アイツ、私のこと好きなんだ……」
頬がゆるゆるの青井さんである。
「青井さんが赤崎君を好きってところは否定しないんですね」
「え? あ……」
青井さんは、ぼんっと音がしそうなほど真っ赤にした顔を、布団に埋めてしまった。
「そう言う白鳥さんはどうなんですか? 難波君と幼なじみなんですよね? とても仲が良さそう。好きなんですよね」
顔を半分だけ上げた青井さんが、こちらを見上げてくる。
「そうね。大好きよ」
「うわ……こっちが恥ずかしくなるくらいはっきり言いますね。つきあったりしないんですか?」
「うーん……どうなんだろう……」
「白鳥さんに好かれて嫌がる男子なんていないと思いますけど」
「それはよくわからないけど、少なくとも好かれているのは間違いないと思う」
「きゃーきゃー! どれくらい好きなんですか?」
「いつでも命をかけられるくらい」
「思ったよりロマンチックなこと言うんですね」
「そんなことありませんよ。彼も私も」
彼のためなら死ねる……というのは違うかもしれない。
そうなれば、彼は必ず悲しむからだ。
それでもなお、彼のために命をかけることはできる。
迷わずに。
「え……」
思わず漏れた私の本気に、青井さんは少し引き気味だ。
「一緒に人生を歩くというのはそういうことでしょう?」
「重っ! まだ付き合ってもいないのに重っ! もしかして、二人がくっつかないのって、そういうところなのでは……」
「え? そう……かな?」
「どうですかねぇ……告白してみればわかるんじゃないですかねぇ……」
「もう! おもしろがってるでしょ!」
「お互いさまですよ」
なんだかいいな。こういうの。
同年代の女の子どうしで好きな人についてこうして平和に話すことなんて、今までなかった。
宇佐野さんだと、取り合いになっちゃうしね。
それはそれでちょっとだけ楽しくも……いや、そんなことを考えるのはよくない。
彼女も真剣なのだ。
「その調子ならお肉も食べられるでしょ」
「あら、ばれました? おかゆはとてもおいしかったんだけど、ちょっと物足りないなって思ってたの」
「そう思って用意してあるからまっててね」
私がつくっておいたのはチキンソテーだ。
もし食べられなくても、冷蔵庫に入れておくつもりだった。
私が料理を青井さんの部屋に持っていくと、彼女は笑顔で出迎えてくれた。
しかし――
「やったあ、お肉……うっ……」
青井さんは苦しそうに口をおさえた。
「大丈夫!?」
「ごめんなさい……お肉を見たらちょっと気持ち悪くなって……一人にしてくれますか……」
「こちらこそごめんなさい。料理は冷蔵庫に入れておきますね」
さっきまでの元気はムリをしていたのだろうか?
いや、そんな感じはしなかった。
というより、明らかに様子がおかしい。
そばにいてあげたかったが、私は青井邸を出ることにした。
そして、青井邸の屋上で、カズが来るのを待った。
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