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14章:ヴァリアントが見ている(7)

 周囲に声の通らない場所ということで、生徒指導室を借りた。

 黄島が持ってきたのは全校生徒名簿だ。


 ぱらぱらとめくり、開かれたページをオレと由依は覗き込む。


「『評価』にひっかかったのは2人です。彼と……その母親。母子家庭です」


 黄島が指さしたのは、オレが交換留学先となっているクラスだった。

 それはつまり、黄島が担任をしているクラスでもある。


「まだ名簿には載っていますが、じきに消されるでしょう。季節外れの名簿改訂なんかでね。喰われるとそういうことがおきる。といっても、組織に知識が受け継がれているだけで、俺も経験はありませんがね」


 黄島は悔しそうに顔を歪めた。

 彼もまた、ヴァリアントの被害者なのかもしれない。そのことを直接覚えてはいないのだろうが。


「『評価』結果を知っているので、まだ俺も意識できていますが、他の先生は出欠をとる時に気付きもしない。出席簿は既に改定が入っていますから」


 そうだ。これがヴァリアントに喰われるということだ。

 オレも記憶定着の魔法を使い続けなければ、これまで喰われていった人達のことを忘れてしまうだろう。


「『評価』とは具体的にどういったことをしているんです?」

「それらしい名前がついていますが、大したことはしていませんよ。俺のようにヴァリアントの知識があるせいで少しだけ記憶が消えにくい人間が、姿が見えないのに周囲から気にかけてもらえていない者がいないかチェックするのです」


 思っていた以上にアナログな方法だ。


「オレをこのクラスに入れたってことは、喰われた生徒と仲の良かったヤツがいるんですね?」

「赤崎、青井コンビです」

「二人ともですか」


 オレの問いに黄島は小さく頷いた。


「三人は幼なじみらしいんです」


 そんなそぶりは二人ともみせなかった。

 忘れているのか、あるいは……。


「二人とも、オレが見ただけでわかる範囲では、ヴァリアント化していないようでした」

「見てわかることがあるのですか?」

「特殊なことをしていないヴァリアントなら」


 条件付きになったのは、ヒミコのクスリの一件があったからだ。

 クスリ以外にも、もしかすると、何かの能力でオレが目を合わせても見抜けないヤツがいるかもしれない。


 オレと由依は黄島から聞き出した、喰われた生徒の住所へと向かった。


◇ ◆ ◇


 学校からバスと電車を乗り継ぐこと1時間弱。

 すでにあたりはすっかり暗くなっている。

 そこは一軒家が建ち並ぶ閑静な住宅街だった。

 全ての家に車庫と門がある。

 都内にこれだけの家を建てるとなると、いったいいくらかかるのか。


 目的の家も他と同様、立派な門構えだ。

 表札の文字は周囲の壁などに比べ、不自然に腐食し読むことができない。

 本来は緑山と書かれていたはずだ。


「あれ? 難波君に白鳥さん、ごきげんよう」


 そこに現れたのは青井だった。

 となりには赤崎もいる。

 制服姿の二人の手には、通学鞄とスーパーの買い物袋がさげられている。

 買い物袋の中身をみると、赤崎が持つ方には重いもの、青井が持つ方には軽めのものが多めに入れられている。

 二人が持つ袋をまとめて一揃いという感じだ。


「一緒にごはん作るの? いいなあ~」


 そのことに気付いた由依が微笑んだ。


「昔から晩ご飯は交代で作ってるだけですよ。どの家も両親が忙しいので。どの家も……? どちらの家も、ですね」


 自分の言い回しに何かひっかかりを覚えた青井だったが、少し照れくさそうに笑った。

 赤崎にいたっては、完全に目を逸らしている。


「二人こそ、こんなところで何をしてるんです?」

「この家に用があってな」


 青井の問いに、オレは目で目的の家をさした。


「そこはもう何年も空き家だったはずですけど……」


 つい最近まで幼なじみが住んでいたはずの家を、青井は見上げ、小さく首を傾げた。


 これがヴァリアントに因果ごと喰われた影響か……。


 切なそうな瞳で彼らを見つめる由依を伴って、オレは緑山邸に足を踏み入れた。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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