13章:コンプリートブルー(26)
「ひっ……いや……いやあああ!」
呻きながら伸ばされる陽山さんの腕から逃れるように、冷泉さんはベッドの上を後ずさる。
「アイイイイイちゃああああああん」
「ひっ……バケモノ!」
頬に触れるその手を、冷泉さんは振り払った。
「バケ……モノ……?」
陽山さんは壁にある大きな鏡に写った自分の姿を見て硬直した。
やがて、膨張した部分がゆっくり収縮していく。
「ほぅ……よっぽどその娘のことが好きなのだな。それとも『種』との相性がとてもよかったのかの」
ヒミコが興味深そうにその変化を眺めている。
「ほら、あたしだよ?」
もとの姿に戻った陽山さんが、衣服がびりびりに破けた状態のまま、ベッドの上を冷泉さんに向かって這い寄っていく。
「ほう……もとの姿を保つか」
割って入りたいところだが、ヒミコが部屋の入口を塞ぎ、こちらに全力でけん制をかけてくる。
まるで「見ていろ」と言わんばかりだ。
いざとなったら、強引に踏み込むまでだが。
オレは剣を出現させ、魔力をためる。
「冷泉さん、それは陽山さんよ」
ヒミコが風間さんの口調で優しく言う。
「陽山……さん?」
「アイちゃんを迎えにきたの。ほら、帰りましょう?」
陽山さんの声には、催眠効果のある魔力が乗っている。
オレには効かないが、言ったことを真実だと思い込ませる、ある種の催眠効果が付与されているようだ。
「かえ……る……。うん、帰ろう」
冷泉さんは、ふらふらと陽山さんの方へ這いずっていく。
「冷泉さんをどうするつもりだ」
「どうもせぬよ」
冷泉さんの耳にオレとヒミコの会話は届いていないようだ。
「そうは思えないね」
オレは剣をヒミコにつきつける。
「見たいだけさ。彼女達がどうなるのか」
「陽山さんは既にヴァリアント化してるだろ」
「だが、もとの人格を残しているように見えぬか?」
言われてみれば、これまでヴァリアント化した連中はみな、神々にその人格を乗っ取られていた。
もとの人格と姿がそのまま残っているのは、初めてかもしれない。
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