13章:コンプリートブルー(24) SIDE 陽山
SIDE 陽山
あたしは夜の繁華街を人目もはばからず走っていた。
「はぁはぁはぁ……げほっ……くっ!」
息が切れ、咳き込むが、それでも人をかき分け、走る。
あたしが甘かった。
あんな男が約束を守るはずがなかったのだ。
スタッフさんから音響監督の安西が、仕事あがりのアイちゃんを連れ出したと聞き、全てを捨ててスタジオを飛び出したのだ。
携帯電話には何度もかけたがつながらない。
あたしが最初にされた時のことを思い出す。
まず行くべきは、安西行きつけのバーだ。
あいつはあそこで女の子に強いお酒を飲ませる。
お酒にくわしくないあたしだが、飲んだものにしてはアルコールのまわりが早すぎた。
もしかすると何か入れられたのかもしれない。
あたしはバーに飛び込み、マスターにつめよった。
「安西は!?」
「もう出てったよ」
マスターは無表情でグラスを拭きながら答える。
「女の子を連れてた?」
「つれてたね」
「意識は?」
「随分酔ったみたいでね。肩をかりてぐったりしていたな。タクシーを呼んでたけど、乗せてもらえたかどうか……」
「ありがとうございます!」
お礼もそこそこにバーを飛び出した。
こうなったら行き先は一つだ。
安西お気に入りのラブホである。
部屋に入られてしまえばもう手は出せない。
唯一の救いは、初めては意識のある相手にして屈服させたいという性癖なことだ。
アイちゃんが朦朧としている間なら、間に合う。
あたしの祈りも虚しく、ラブホについても二人の姿は見えなかった。
迷わずラブホに飛び込む。
安西が使うお気に入りの部屋はわかってる。
カギがかかっているのはわかっているが、足は止まらない。
なんだかからだのあちこちがかゆい。
景色が……いや、顔が歪んでいる気がする。
だがそんなことに関わっている場合ではない。
あたしは部屋のノブに手をかけた。
すると、大した力もこめていないのに、ノブはぐにゃりと曲がった。
壊れていたのだろうか?
ちょうどいい。このまま押し入らせてもらう。
部屋に入ると、ベッドに着衣のまま横たわっているアイちゃんがいた。
安西!! 絶対に許さない!!
よかった、まだ何もされていないみたい。
ベッドの近くには、カメラと三脚が立てられている。
安西に言わせれば「念のため」というヤツらしい。
「な、なんだ!? ひぃっ!?」
バスルームから出て来た安西が、あたしを見て目を剥いた。
アイドル声優の顔を見て悲鳴を上げるなんて酷い話だ。
それにしてもお腹がすいた。
いや、そんなことを言っている場合ではない。
なんとしても、アイちゃんに手は出させない!
「結局、適性があったのは其方だけか」
その時、背後から聞き慣れた声がした。
「風間さん?」
振り返ると、そこにはいつもの優しい雰囲気から想像もつかない、冷たい目をした彼女が立っていた。
「確率が低すぎて使い物にならんな。1人成功しただけでもよいか。しかしこれは――」
風間さんの声が遠くなっていく。
体の感覚も……にぶ……く……。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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