13章:コンプリートブルー(21)
都会のビル群の中にすっぽりとあいた小さな空間。
そんな公園のブランコに、冷泉さんは座っていた。
園内には、ワンカップ片手に隅の花壇でいびきをかいているサラリーマンが一人いるだけだ。
「冷泉さん?」
オレは偶然を装い、冷泉さんのとなりのブランコに座った。
「難波さん? どうしてここに……」
「ちょっと通りかかったら見かけたので」
「嘘ですね」
あっさり見破られた。
「わざとらしかったですか?」
「そんなことないですよ。ただ私、他人の嘘がなんとなくわかることが多いので」
「すごい能力ですね」
「エスパーみたいなものじゃないですけどね。役者になるのに、ずっと人を観察していたらできるようになっただけです。はずれることだってもちろんありますよ」
だからオレのこともわりとすんなり信用したのか。
「後をつけたみたいな感じになっちゃってすみません……」
みたいというか、ほとんどそのままではあるのだが。
「そうね、やめてほしいですね」
表情も口調も柔らかいものの、きっぱりと言われてしまった。
やはり引くべきか。
そんな考えが頭をよぎったが、背中を押してくれた由依の顔が目に浮かんだ。
「本当は声をかけるつもりなんてなかったのですが、その……」
「いいんです。心配してくれたのでしょう?」
「はい……」
「難波さんはけっこう演技が上手ですけど、キャラに『なる』タイプじゃないので、わかりやすいんですよ」
「何かのモノマネみたいだってことですかね」
「あら、そこまでは言わなかったのに」
冷泉さんはくすりと微笑んだが、その目は笑っていない。
「もしよかったら何があったか聞かせてもらえませんか?」
「それは…………」
口を開きかけた冷泉さんだったが、すぐに黙ってしまった。
オレに相談するということは、仲間を売ることになるのか。
それなら、オレから水を向けてやらないとな。
「ラブホから出て来た二人に関わることですか?」
「見て、しまったのね……」
冷泉はこれまでで一番険しい表情を見せた。
「枕営業ってやつですかね」
「ちがう……と思いたかった」
「自分を庇うためにやったと?」
「あなた、人の心が読めるの?」
「冷泉さんほどじゃないですよ」
「私のは違うけど……」
「この前の相談を思い出せば、答えは出るかなと」
「そっか……そうよね」
冷泉さんは一息つくと、覚悟を決めたように話し始めた。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
続きもお楽しみに!
ブックマーク、高評価での応援をなにとぞ! なにとぞよろしくお願いいたします!
(この下にある★5をぽちっと)