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13章:コンプリートブルー(20)

 冷泉さんが見ているのは、一組の男女だった。

 男性は先日の収録で見た音響監督の安西だ。

 安西に肩を抱かれてラブホへ入って行く女性は、陽山さんじゃないか?

 夜だというのにグラサンで変装しているが、間違いなさそうだ。

 もしかして……枕営業とかいうやつか?

 いやいや、普通に恋人どうしかもしれないしな。


「あれって、声優の陽山詩織じゃない?」


 反応したのは美海だ。

 さすがオタクだけあって、女性声優の顔にも詳しい。

 陽山さんの場合、声優情報誌なんかにも顔が載ってるからな。

 90年代中盤あたりから続々と創刊された声優情報誌には、オレもお世話になったものだ。


「でも声優さんが声優さんの後をつけるなんて、どういう事情かしらね」


 由依はオレと同じ疑問を口にした。

 そういうオレ達も、ビルとビルの間に隠れて、様子をみているわけだが。


「もしかして、あの音響監督がヴァリアントとかそういうこと? そうなんでしょ? よーし、私がちょっと見てくるね。ラブホって初めて!」

「いや、そうと決まったわけじゃ――」


 美海はオレの話を聞かずに神器を発動させると、姿を消した。

 違う目的ではりきってたようにしか見えなかったが……まあいいか。

 美海のやっていることはどう考えても完全にただの覗きなのだが。

 まさか、部屋の中でいたしている間中、見ているとも思えないから大丈夫だろう。

 ……大丈夫かなあ?




 そうして待つこと1時間以上。

 美海を待つオレ達三人は、路地裏でジュースを飲んでいた。


「500mlのペットボトルって便利よね」

「ですね。缶みたいに飲みきらなくていいし」


 女子二人はのんびり世間話に興じている。

 そういや、500mlのペットボトルができたのって、ちょうどこの頃か。


「ただいまぁ」


 オレ達の背後に美海が現れると同時に、ラブホから陽山さん達も出て来た。

 陽山さんは笑顔で音響監督の腕を抱いている。

 脅されてラブホに入ったようには見えないな。


 未来なら週刊誌にすっぱぬかれるような光景だが、この頃はまだ声優がターゲットになることは少ない。

 よほど人気のある人が、契約上出てはいけないビデオに出たなんてことがあれば別だが。


「部屋に入ったら出られなくなっちゃって……」


 美海は顔を真っ赤にして目を泳がせている。

 変身状態の彼女が、ここまで恥じらいを見せるのは珍しい。

 全部見ちゃったのか……。


「何か情報はつかめたか?」


 ヴァリアントではない彼らから何か情報を得られるとも思えないのだが、一応訊いてみる。


「べ、勉強になった……」

「そういうことを聞いてるんじゃなくてだな」

「大人の階段、のぼっちゃったかも……」

「おーい、帰ってこい」


 ほげっと虚空を見つめる美海の前で手を振るも、脚をもじもじさせるだけで、正気に戻る気配がない。


 一方、ホテルから出て来た二人を見た冷泉さんは、がっくりと肩を落とし、彼らとは逆方向へ歩いて行った。


 声をかけるべきだろうか。

 過分なお礼をもらってしまったこともあるし、力になりたいと思う。

 だが同時に、さほど親しくない彼女に、そこまで踏み込んで良いモノかと悩む。


「力になってあげたいんでしょ? 行ってきたら?」


 そんなオレの背中を押したのは由依だった。


「今のカズならきっとできるよ」

「由依……」

「もし通報されたらちゃんと迎えに行ってあげるから」

「通報!? せめてひかれるくらいにして欲しいんだが!? でも、ありがとな」

「ちょっと妬けちゃうけどね~」


 冗談めかして言っているが、思うところはあるだろう。

 だがここは甘えさせてもらうことにしよう。



ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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