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13章:コンプリートブルー(17) SIDE 冷泉

SIDE 冷泉



「こないだの件、考えてくれた?」


 安西が私の肩に手を置き、それを二の腕に滑らせた。


「お断りしたはずです」

「ええ~? 悪い話じゃないと思うんだけどなあ。詩織ちゃんと差をつけられたくないでしょ? おっと、これはオレがひいきするってことじゃなくて、世間の人気的な意味ね」


 安西がにやりと笑う。

 もちろんこちらのマイクは切られているが、それでも後々問題になるようなワードは出さない。


「私はそんなこと気にしませんよ」

「ほんとに~? 人気があると色んな役をもらえるのに?」

「オーディションで実力さえ見てもらえれば、勝ち取れます」

「見てもらえればね。そんな甘い世界じゃないことはわかってるでしょ?」


 当たり前だ。

 今でこそ事務所からオーディションの枠は優先してもらえているし、作品側から指名も来る。

 だがそれがいつまでも続くわけじゃない。

 悔しいことに、アイドル扱いされていることで、ブーストがかかっていることも事実なのだ。


 この男の誘いを断ったからと言って、直接的に仕事が減ることはない。

 だが、他の声優にチャンスがまわってしまえば、結果として私の仕事は減ることになる。

 この仕事は、少ない席を奪い合うゲームなのだ。


 だからと言って、一線を越える気はない。


 私は手段を選ぶつもりはないが、それは単に仕事を得るためではない。

 未来の自分が恥じない自分になるためだ。

 だから、この一線を越えることは、全力を出さないことと同じように、やってはいけないことなのだ。


「わかっています」

「一度の人生なんだから、賢く生きた方が良いと思うけどなあ」

「あなたの言うそれが、賢い選択だとは思えません」

「お堅いねえ。気が向いたらまた声をかけてよ」

「そんな日は来ません」


 睨み付けてやったつもりだが、安西はへらへらと笑ったまま、私の体をなめ回すように見た。

 あまりの不快感に、全身に怖気が走る。


「あー! 安西さんってば、またアイちゃんにちょっかい出してる-! だめですよ、アイちゃんがいくらかわいいからって~」


 そこに、トイレから陽山さんが戻ってきた。

 彼女の明るさに、場のイヤな雰囲気が吹き飛ぶ。

 腰に手を当て、ぷくっと頬を膨らませる仕草が実に愛らしい。

 この輝きこそ、彼女に多くのファンが惹かれる理由だろう。



「手を出すなんてそんな。人聞きが悪いなあ。ちょっとアドバイスをしていただけだよ」

「ほんとにぃ~?」

「ほんとほんと。さて、そろそろ収録再開しようか」

「はーい」


 収録はなんとかその日のうちに終えることができた。

 ただ、この曲をイベントで披露する日がくると思うと、実に気が重い。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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[気になる点] バリアントが食べた人間に関する記憶は薄れるということは、例えば強姦罪を犯した罪人を食わせれば、被害者にとってこれ以上ないメンタルケアになるのでは無いだろうか。 人間は世の中がキレイにな…
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