13章:コンプリートブルー(15)
収録を見学したその日の夜、オレは由依の部屋を訪ねていた。
いつでも来ていいと言われてはいるが、夜に訪ねるとなると、やはり少し緊張する。
――コンコンコン。
「由依、ちょっといいか?」
「カズ!? え、ちょっとまってね!」
部屋の中からドタドタとさわがい音が聞こえ、待つことしばし。
「ど、どうぞ……」
中から現れたのは、ネグリジェに黒タイツ姿の由依だった。
部屋の灯りはスタンドライトだけで薄暗い。
「寝るところだったか?」
「うん、でもいいよ。入って入って」
由依はちょっと恥ずかしそうにオレを部屋に招き入れ、ベッドとイスを何度か見比べた後、イスを勧めてきた。
そして、由依自身はベッドに腰掛ける。
「どうしたの……?」
もじもじ上目遣いで由依が訊いて来る。
いかん、勘違いさせているみたいだから、すぐ本題に入ろう。
「ちょっと話したいことがあってな」
オレはスタジオでの出来事と、冷泉さんから受けた相談について話した。
「由依ならどう答えた?」
「うーん……具体的なところがわからないとなんとも言えないけど、カズは間違ったことを言ってないと思う。ちょっとストイックすぎるけど」
「そうか……」
「きっと答えはシンプルなんだよ。自分がどうしたいかってことだけ。自分の目標が優先ならそっちを頑張るし、その義理のある人っていうのを助けたいなら助ける。どっちもなんとかしたいなら、そこに向かって頑張る。どちらかしか選べないなら選ぶ。誰かの力を借りられるなら借りる。結局は自分で決めるしかないんだと思う」
「自分で決めるか……そうだよな」
オレも内心はわかっていた。
だがそれはシンプルだが難しいことだ。
だから他人に話を聞いてもらうのである。
今のオレのように。
誰かに話すことで、思考の整理ができるしな。
「きっと冷泉さんも今頃悩んでると思う。でも、カズに話せたなら、詰まってた思考も前に進んだんじゃないかな」
「だといいな」
「きっとそうだよ」
「ありがとな。どうも戦い以外で他人の人生に関わるってのは、そんなに得意じゃなくてな」
「そんなの得意な人なんていないよ。ふふっ……でもちょっと嬉しいかも」
由依は口元を緩めて、じっとオレの目を見つめてきた。
「何がだ?」
「私でもカズの助けになれたんだなって。カズの人生に関われてるのかなって」
「オレの人生の半分は由依でできてると言ってもいいくらいだぞ」
「えー? それってプロポーズ?」
「違うからな!?」
なんつー恥ずかしいセリフを口走ったんだオレは。
部屋を出て行こうとするオレに、由依は「もっと居てくれてもいいんだよ」と言ったが、やんわり断る。
こんなに良い匂いのする部屋にいて、理性を保つ自信がない。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
続きもお楽しみに!
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