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13章:コンプリートブルー(14)


「それしか食べないんですか?」


 オレは目の前で生ハムのサラダをゆっくり食べる冷泉さんに訊いてみた。

 晩ご飯はそれだけなのだろうか。

 エビフライ付きのハンバーグを食べているこっちが申し訳なくなる。


「これ以上食べると太っちゃうから」

「そんなに細いのに、気にする必要あります?」


 冷泉さんはモデル並と言って良い体型をしている。


「普通の細さじゃだめなんです。私達は商品だから、それに見合ったものでなければ」


 そう言う冷泉さんの顔には、一瞬だけ嫌悪の表情が浮かんだ。


「声だけで演じるはずの声優が、ビジュアルも求められるようになってますからね。その傾向はこれからも加速するでしょうし」

「そうなの。キャラクターとしての歌ならともかく、アイドルみたいに私自身が歌まで歌って、ファンに愛想を振りまいて……何してるんだろう……」

「アイドル声優扱いはイヤなんですね。そう公言されてますし」

「役者としての声優に憧れて、この職業についたので。でも、生き残るには必要なことだとはわかってるんです」

「事務所は売れる役者を欲しているでしょうしね。アイドル化はそのために近道であり、効果的ということなんでしょう。オレはアイドルに向かないけど優れた役者が出て来たとき、アイドルでなければならないと縛ってしまうのはもったいないと思いますけどね」

「でも結局声優事務所なんて、数を打って人気者を探す仕事だもの。それならとりあえずアイドルとして売り出してみるというのは、当然よね。もちろん事務所に感謝はしているのだけど」

「事務所の方針にもよるだろうけど、そうでしょうね」

「風間さんみたいなナレーター方面なら、アイドル売りは避けられるのだけど……」

「キャラクターを演じたいんですね」

「うん……。私はそのために声優になった。家も、学歴も全て捨てて……。あ……ちょっと話し過ぎちゃった。ごめんなさいね、こんな話」

「いえ、話すことで少しでも楽になれたなら」

「あなた、実は年齢ごまかしてない? こんな高校生、アニメでも見たことないわ」

「19歳で宇宙戦艦の艦長をしていたおっさん顔のキャラクターなんてのもいましたけど」

「つまりあなたは、連邦のエリートってことね」

「おっと、それを自分で言うのは恥ずかしいですね」


 クスリと笑う冷泉さんの微笑みは、雑誌などで見る完璧な笑顔より、よほど魅力的だった。


「なぜ飲み会に行かなかったんですか? 飲みの席でゲットできる仕事も少なくないんじゃ」


 オレはあえて話題を切り替えてみた。


「そうなんだけどね……」


 冷泉さんがぶるりと、僅かに体を震わせた。


「すみません、嫌なことを訊いてしまったみたいで」


 自分の望まないアイドル的な売り出し方を無理矢理がんばるような人だ。

 アイドルではないと公言してはいても、やっていることは実質それなのである。

 自分がアイドルではないと公言することが、彼女のキャラになっていると言ってもいい。

 アイドルを否定するアイドルという、少し特殊な立ち位置だ。


 そこまでして声優に固執する彼女が、仕事に繋がる可能性のある飲み会を断るとは思えない。

 よほどの事情があるのだろう。


「もし、もしよ……あなたにとって、義理のある人が、あなたのために自分に大きな犠牲を強いていたと知ったらどうします?」


 何を語るか迷っていた様子の冷泉さんが、慎重に言葉を選びながら訊いてきた。


 その問いで最初に思い出したのは、異世界で死んでいった仲間達だ。

 彼らに報いられるのは、魔王や神々を倒すことだった。


「助けてくれたということは、助けた相手に目的を達成してほしいってことですよね。それなら、目的を達成することに全力を傾けると思います」

「犠牲を払うのを止めようとはしないってこと?」

「どの程度の犠牲かと、達成したい目的にもよりますが……オレは、目的の達成を第一にしましたね」

「そういう経験、あるのね……」

「まあ……」

「そう……ありがとう」


 そう言いながらも、冷泉さんは顔を曇らせたままだった。


「あまり思い詰めないでくださいね」


 こんな一言が気休めにもならないとわかっている。

 こんなとき由依なら、何か良い言葉をかけられるのだろうか。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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