12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(10)
結局のところ、長野には行くことに決めた。
黙っていても攻め込んでくるのなら白鳥邸が戦場になってしまうし、罠なら蹴散らせばよいだけの話だ。
何より、連中がまとまって移動しているというなら、そこで叩いてしまう方が楽である。
移動は決戦当日の朝。
日中に下見をしておくという流れだ。
それまでの二日間は白鳥邸にとどまることになる。
結界もあるし、訓練を続けるにはここの方が都合が良いからだ。
そんなわけでオレ達4人は、ショッピングモールに来ていた。
長野に行くための服やカバンなどを買うためだ。
ショッピングモールでは目立ちに目立った。
美海こそ普段の地味な格好だが、由依と双葉は誰もが振り返るほどの美少女だ。
特に夏の薄着な由依の胸は、あまりに破壊力がありすぎる。
そうして、美少女三人がオレの服やカバンを選ぶ様子を、他の客や店員がチラチラと見るという構図ができあがったのだった。
由依と双葉は注目され慣れているのか、それらを無視しているが、美海はおちつきなくあたりを見回している。
高校生のオレなら美海と同じ反応をしただろうが、今のオレは無我の境地で女子のやりとりを眺めている。
「やっぱりカズにはコレがいいと思うの」
「お兄ちゃんにはこっちだよ」
「わ、私はカズ君にはこっちが……」
三人がそれぞれにオレに持たせたいカバンを持ってくる。
アウトドア用品店で買うカバンにそこまでこだわらんでもいいだろうに。
丈夫で量が入ればそれでいいのだ。
持っていくのは食料と、変身で破ける美海の服がメインだからな。
どれを選んでも角が立つんだよなあ。
野次馬達もオレがどれを選ぶのか、固唾を呑んで見守っている。
正直、性能だけを見るならば、由依が選んだものが一番いい。
見た目もシンプルでいい感じだ。
さすが幼なじみ。
オレの思考と好みを把握している。
他の二人が選んでくれたものも悪くはない。
オレが手に取ったのは、由依が選んでくれた形に近いカバンの別メーカー品だった。
「逃げた」「逃げたね」「逃げたなあ」「逃げたわね」
野次馬達がヒソヒソとささやきあっている。
悲しいことに、オレには聞こえてるんだよなあ……。
「やっぱり私の選んだ形がよかったのね」
「あたしの選んだメーカーですよ」
「わ、私の選んだ……その……色に近いような……」
三人がまだわちゃわちゃ言い合っているうちに、オレは会計をすませた。
幸い財布は海に持っていっていたので、生活費などの引き出しはできる。
会計からもどった頃には、三人はすっかり別の話題で談笑していた。
しかし、テナントを出たちょうどその時、美海以外が同時に同じ方向を見た。
「何か出たぞ」
オレ達はうなずき合うと、ショッピングモールの端に発生した魔力に向かって駆け出した。
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