12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(5)
今日の訓練は課題だけ3人に与えておき、オレは一日かけて白鳥邸の敷地を覆う結界を作った。
そんなどでかい結界を張れば、逆に目立ってしまうは承知の上だ。
オレの自宅を見つける連中である。
どうせここにもたどり着くだろう。
それなら、労力は隠蔽よりも、結界の強化に使ったほうがいい。
すっかり日もくれ、訓練を終えた頃には、ひとまず結界は完成していた。
そこらのヴァリアントに破ることは不可能だろう。
美海はいったん帰宅することになった。
明日からでも、白鳥邸に泊まる算段だ。
今日のところは、由依がピッチを持たせていた。
自分には必要ないと遠慮する美海だったが、今夜だけでも念の為、と由依が強引に渡したのだ。
昨日の今日で美海が狙われる可能性は高くないだろうが、正しい判断と言えるだろう。
そんなこんなで、夕食を終え、風呂の時間。
準備は全てメイドがやってくれる。
一人暮らしや旅生活が長かったせいで、こうもなんでもやってもらえると、逆に不安になる。
アホになりそうだ。
「難波様、お風呂の準備ができました。ご希望通り、温泉露天風呂です」
メイドがタオルと着替えを持って、部屋に来てくれた。
いやもう、ほんとダメになりそう。
白鳥邸にはスーパー銭湯よりも多くの風呂があるらしい。
建物が多いから当然とも言える。
オレがメイドに連れられたのは、本館からはかなり離れた場所にある、温泉専用の建物だった。
「それではごゆっくり」
さすがに男湯と女湯が別れているようなことはないが、十人は同時に利用できそうな脱衣場がある。
ドライヤーや洗面台もあり、さながら温泉地だ。
オレはいそいそと服を脱ぎ、タオル一枚で浴室へ。
シャワーなどの洗い場も外にあるタイプなので、冬は寒そうだが、この季節なら問題ない。
岩で作られた湯船は、詰めれば十人は入れそうだ。
こんなものが家にあるなんて、さすがに白鳥家である。
「カ、カズ!? なんで!?」
そんな湯船の中で驚いているのは由依だ。
もちろんすっぽんぽんである。
「おお!? 由依こそなんでいるんだ!?」
あのメイド、事前にちゃんと確認したと言っていたが。
白鳥家のメイドがこんな簡単な確認ミスをするとは思えない。
佇まいは完全にプロのそれだからだ。
主に仕え、使用人に徹する、メイドの鑑である。
『鍵はしっかりかけましたので、お二人ともごゆっくり』
スピーカーからメイドの声が流れてくると同時に、背後で鍵の閉まる音がした。
なぜ風呂にスピーカーが……?
緊急用だろうか。
なんにせよ、前言撤回。
思っていたよりフランクなメイドだ。
「ちょっと早乙女!」
由依がメイドの名を呼ぶも、スピーカーは沈黙したままだ。
「ええと……この程度の鍵ならすぐ開けられるから出るな」
「出なくて……いいよ」
振り返ったオレの背中にかけられたのは、あまりにも意外な言葉だった。
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