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11章:水の星へ覚悟を込めて(9) SIDE 美海

SIDE 美海



 ポセイドーンが名乗りを上げるのと同時に、彼の背後で大量の泡が海底火山のように吹きだした。

 自分で演出しているのだろうか。

 その陽気さが逆に不気味である。


 ノリの良いヤツだ、などと言っている場合じゃない。

 ポセイドーンといえば、ギリシャ神話の超有名な神だ。

 カズ君によると、強い神がもとになっているほど、ヴァリアントも強力になると聞いた。

 ならばこのポセイドーンは、キャットミーランドで私を襲ったヴァリアントよりも強いのだろう。


「おめでとう。キミはオレの食料に選ばれた!」


 ばばーんんと両手を開いておどけるポセイドーン。


「おや? あまり驚かないね」

「ヴァリアントなんでしょ?」

「ほっほう! それを知っているとは、『組織』の人間かな!?」


 いちいち動作が大仰で、うさんくさいことこの上ない。


「いいえ」

「『組織』に属していないのに記憶が残っているとは珍しいな。その上、ヴァリアントという単語まで知っている。生い立ちが気になるところだが……いいや、さっさと食べちゃおうか」

「私達が沖にいたのもあなたの仕業ね」


 私はポセイドーンの話を遮るように問いかけた。


 今は少しでも時間を稼ぐ。その間になんとか神器を発動させることができれば、生き延びる可能性が出てくる。

 幸い、先程の渦でもカチューシャは飛ばされることなく頭についている。

 こうしている間も、私の脚はガクガクと震えているけれど。


「そうだ! キミタチが食べたとうもろこしは、俺様が魔法をかけていてね。人気のないところにお越し願ったというわけだ!」

「意識を失っているうちに、自分たちでゴムボートを漕いだってこと?」

「そのとおり! どうかね! 驚いたかね!」

「まあ……」

「気のない返事だなあ。若者がそんなことではいかんぞ!」


 なぜか気を良くして説明をしてくれるポセイドーンだが、こっちはどうやって逃げるか考えているのだ。それどころではない。


「なぜそんな手の込んだことを?」

「人目につくと面倒だし、死体は美味しくないからね。なにより、しばらく生きたまま海に浸かった人間は、塩味が効いていて美味しいんだよ!」


 私の背中を寒気が走る。

 聞くんじゃなかった。

 気の良いおっちゃんな雰囲気に和みそうになったが、やはりヴァリアントなのだ。


 なによりまずは、神器を起動することだ。

 認めたくないことだけど、私が最も魔力的な集中力を発揮するのは、エッチなことを考えている時らしい。

 中高生男子じゃあるまいし、そんなことあるはずないのだけど、カズ君が言うのだからそうなのだろう。

 私は必死で彼のたくましい胸板や、それ以上のあれこれを妄想した。


 …………。

 …………。

 ……いくらなんでも集中できない!


 いまから食べられるかもしれないってのに、エッチな妄想しろってのは無理あるでしょ!


「さて、そろそろお前たちを食べようと思うのだが、最後に言い残すことはあるか?」

「助けて! まつりなんか食べても美味しくないからね!」


 叶わないであろう願いを正直にぶつけるなあ。

 やっぱりちょっとアホのコだよね。こんな状況だからしかたないけど。


「それはできん。俺様は腹が減っているのだ」


 ほらやっぱり。


「じゃあ私は、食べられる前に幸せな夢を見せて。ポセイドーンさんは紳士みたいだから、泣き叫ぶ人間を食べるのが趣味というわけではないのでしょう?」

「紳士……ふむ、意味はわからんが悪くない響きだ。よかろう!」

「え!? ちょっと、一人で現実逃避!? ずるいまつりも――」


 鬼瓦さんのわめき声は、すぐに遠くなっていく。

 これは賭けだ。

 もちろんチップは自分の命である。



ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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