10章:テーマパーク(17)
再びキャットミーランドに戻ったオレは、電車で帰宅した。
宇佐野にも一人で心を落ち着かせる時間が必要だろう。
そしてオレ達三人は、宇佐野の待つ家へと入った。
「おかえりなさい。これかりちゃったけど、いいかな……。Tシャツよりは透けないかなって……」
オレの制服のYシャツ一枚姿の宇佐野は、胸元を腕で隠し、もじもじしている。
その太腿がこすれるたび、Yシャツの裾からパンツが見えそうに……ならないなあ。
オレのトランクスを履いているならみえてもよさそうなものだが、透けている感じもしないが。
もしかして何も履いてないんじゃ……。
たしかにオレのパンツなんてさすがに履きたくないか。
「「裸Yシャツなんて私もしたことないのに!」」
なぜそこで由依と双葉はハモれるんだよ。
「とりあえずこれを着てくれ」
オレが目で合図をすると、双葉は持っていた袋を宇佐野に手渡した。
「家に帰るまで下着は我慢してくださいね」
キャットミーランドで買ってきた服だ。
全身グッズまみれになるが、裸Yシャツよりはマシだろう。
「ありがとう、双葉さん……と呼んでいいかしら」
着替えを受け取った宇佐野は、双葉におずおずと訊いた。
「さん付けなんていりませんよ」
まだ親しくない相手に下の名前で呼ばれるのがやや不服なのか、僅かに眉をひそめる双葉だが、あえて拒否するほどではないらしい。
「でも呼び捨てはさすがに……『双葉ちゃん』でどう?」
「それでいいです。ゆ、由依さんもそう呼びますし」
「双葉ちゃん! ついに私のことを名前で呼んでくれるんだね!」
由依がぎゅっと双葉に抱きついた。
「やめてください。私だけ名字で呼ぶのも変だからですよ」
「もう~照れる双葉ちゃんもかわいいなあ」
「急に子供扱いしないでください!」
美少女二人のイチャイチャ……ちょっと尊いな。
なにかとバチバチやりあうことの多い二人だが、こうして仲良くしてくれるなら何よりだ。
「ただしそのカチューシャ、大事にしてくださいね」
「え? うん、もちろんだよ」
双葉のセリフに宇佐野は首を傾げている。
「本当は自分がもらったものだから」と言わないあたりが、双葉のよいところだ。
こんど別の何かをプレゼントしてやらないとな。
「それじゃあ……白鳥さんも『由依ちゃん』でいい?」
「いいよ。私も美海ちゃんって呼ぶね」
「やった! ありがとう! ふふ……こうやって名前呼びに切り替えるイベントって憧れてたんだ~」
心底嬉しそうな宇佐野である。
イベントて。
「それで、えっと……」
宇佐野がこちらをちらちら見ている。
「わかったよ、オレもカズでいい」
「ありがとうカズ君! 私も美海って呼んでね」
「「むう」」
由依と双葉がそろって口を尖らせた。
そこはダメなんだ!?
「それはともかくとして、早く服を着てくれないか?」
「ひゃあ!? ごめんなさい!」
着替えを抱きしめた美海は、部屋に去って行った。
Yシャツの裾から尻が見え――
「カズぅ?」
あ、はい。
由依の鋭い視線がオレに突き刺さる。
成り行きとはいえ、なかなかに濃いパーティの結成だ。
オレは異世界での濃い仲間達を思い出し、この場の温かさを感じると同時に、なんとも切ない気持ちになるのだった。
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