10章:テーマパーク(8) SIDE 宇佐野
SIDE 宇佐野
そろそろ日が暮れてしまう。
次こそ……次に難波君がアトラクションから出てきた時こそ、声をかけよう。
こっそり彼らのあとをつけることまる1日。
アトラクションの入口までついていっては、出口で待つのを繰り返している。
彼らの後ろに並ぶと列の折り返しでバレるかもしれないし、アトラクションに乗る組がズレると、見失う恐れがあるからだ。
――妹さんと水入らずのところを邪魔しちゃ悪い。
そんなのは、彼に話しかけられない自分への言い訳だった。
学園祭やモールでは勢いでいけたが、こうして構えれば構えるほど、前に踏み出せなくなる。
渡辺さん達が羨ましい。
彼女が今日ここにいたのは、本当に偶然なのだろう。
私なんて無駄に通ってしまったというのに。
ぐぬぬ……わかってる……彼女達が悪いわけじゃない。
でも……ぐぬぬ……。
鬼瓦さんなんて、前は難波君のことをバカにしてたのに。
そんな彼女達が、偶然彼と出会えるなんて。
去年の今頃、彼の良さを知ってるのは、私だけだった。
彼がみんなに認められるのは嬉しいことだけど、ちょっと寂しさも感じてしまう。
すごく勝手だということはわかってるけど。
それに難波君、ちょっと妹さんと仲良すぎではないだろうか。
世の中の兄妹って、皆あんな感じなんだろうか?
そんなことないと思うけど……。
目の前をカップルや家族、友達グループなどが通り過ぎていく。
はぁ……なにやってんだろ、私。
勢いでこんなストーカーまがい……というか、そのものなことをしてしまったが、むなしいだけだ。
白鳥さんならこんな惨めなこと、しないんだろうな……。
「うえええええん!」
ぼけっと難波君達が出てくるはずのキャットトイコースターの出口を眺めていると、手にカチューシャを持った幼女が泣きながら歩いていた。
こういった時、普通ならパークの人が声をかけるのだが、あいにく周囲には見当たらなかった。
それどころか、客の姿も見当たらない。
もうすぐキャットウォークパレードが始まる時間ではあるが、それにしたって少なすぎる。
何かあったのだろうか?
「うええええん!」
あの子に声をかけると、アトラクションから出てくる難波君を見失っちゃうかもしれないけど……。
「うええええん!」
ああもう!
しょうがない!
ほっとけないよ。
「どうしたの?」
「ママがいなくなっちゃったぁ……うええええん」
「ええ……」
あたりを見回すが、それらしい人はいない。
「しょうがないなあ……。ママのところまでつれてってあげるよ」
「ほんとう……?」
「うん、ほんと」
難波君達とは完全にはぐれちゃうなあ。
一日無駄にしちゃうけど……いいよね。
ここでこの子を放っておいたら、難波君に合わせる顔ないもの。
ううん……どうせこのままじゃ、彼に声をかける勇気なんてだせなかった。
だからいいの。
幼女の手を握ってあげると、彼女は私の頭をじっと見ていた。
「ほしいの?」
私の問いに彼女は遠慮がちに頷いた。
まあいいか。ここに通うのも今日で最後だ。
持って帰っても使い道はない。
私が幼女の頭に限定のネコミミカチューシャをつけてあげた。
「えへへありがとう。お礼にこれ、あげるね」
幼女はその手に持っていた黒いカチューシャを私にくれた。
なんだか沈んでいた私の心が、少しだけほっこりする。
せっかくだからとつけてみると、なんだか全身がぽうっと温かくなった気がした。
幼女の気遣いに触れたからだろうか。
さて、ちゃんとこの子を届けてあげなくちゃね。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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