9章:ラブレターフロムギリシャ(16)
由依との水中訓練を終えたオレと由依は、砂浜に並んで座り、月を眺めていた。
「ごめんね、こんなことになって」
「そう何度も謝らなくていいし、そもそも由依が謝ることじゃない」
「うん……」
頷く由依だが、その顔は暗い。
「私がいたから……カズを巻き込んじゃった」
「由依一人でもここに呼ばれていたんだろ? だったらオレは、おやじさんに言われなくてもここに来ていたさ」
「カズ……」
一瞬嬉しそうに微笑んだ由依だが、喜んでしまったことを恥じたのだろう。
顔をそむけてしまった。
オレにとっては、由依に喜んでもらえることこそ、嬉しいんだがな。
「オレの強さが信用できないか?」
「ううん、そんなことない。それは、はっきり言える」
由依はまっすぐこちらを見た。
「じゃあ大丈夫だろ」
「でも……ヴァリアントは、予測のつかない能力を持っている時があるから、カズに何かあったらって考えちゃって……」
「心配してくれてありがとな。でもそれはオレだって同じ気持ちだ。オレの知らないところで由依に何かあったら、生きちゃいられない」
「カズ……」
「だったら、一緒に戦った方がいいだろ」
「そっか……そうだよね。うん、父の話を聞いて、なにかすごい敵が出て来そうで不安だったの」
「ま、来るだろうな」
「え!?」
「まあそれくらいの方が、おやじさんが出す条件をクリアーした後、イチャモンをつけられる可能性も低くなるだろ」
あの人のことだ。
どうせ無理難題をおしつけてくるに違いない。
その難易度が高ければ高いほど、オレの力をわからせることができる。
「イチャモンをつけるってところまで見抜いてるのね」
「あまり由依のおやじさんを悪く言いたくはないがな」
似たようなタイプとは、サラリーマン時代に何人も会ったことがある。
「いいのよ。あんな人」
由依は吐き捨てるように言った。
親とはいえ、自分の命を軽く扱った相手だ。
そんな反応になるのも頷ける。
オレが少し距離をつめ、肩を触れさせあうと、由依はオレの肩にことんと頭を乗せてきた。
「私、もっと強くなるね……」
オレが護るだとか、無理しなくていいとか、そんなことを言うのは簡単だ。
だがそのどれも、彼女は望まないだろう。
「ああ」
オレは短くそう答えただけだった。
こういう時に、気のきいたことを言えるようになりたいものだ。
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