9章:ラブレターフロムギリシャ(5)
「訓練? 必要ないと思いますが?」
「それは訓練に参加する北欧精鋭部隊を見ても言えるかね?」
鉄岩は小さく鼻で笑ってみせた。
安い挑発だ。
だが、その精鋭とやらがどの程度オレの『邪魔になるのか』は、把握しておいた方がいいだろう。
「訓練への参加も条件だとか言い出すのでしょう?」
「そういうことだ」
「わかりましたよ」
「よし決まりだな。では早速出発してもらおう」
「今から!?」
「そうだ。すぐヘリに乗れば、ちょうど北欧の兵士達と現地で合流できるだろう。必要なものは全てこちらでそろえるから心配しなくていい」
ヘリって……どこに連れて行く気だよ。
「もちろん私も行くわ。文句はないわよね?」
有無を言わさぬ圧力を放つ由依だが、鉄岩は涼しい顔で頷いた。
「かまわんよ。戦力は多い方がいい」
普通の親なら心配するところなのだろうが、そんなそぶりは全くなかっった。
オレと由依は結局、そのまま白鳥家の敷地からヘリに乗ることとなった。
電話で双葉に二週間ほど家をあけることを伝えると、かなり不満そうな声が返ってきた。
お詫びに、夏休み中に遊びにつれていく約束をさせられてしまった。
こりゃあ、家に帰ったらかなりふりまわされるな。
「カズ……なんだかごめんね……」
寄り添うように隣に座る由依がそう言ってきた。
ヘリは後部座席には六人乗ることができる。
今はパイロットの他に乗っているのはオレと由依だけだ。
贅沢な話である。
「日本が狙われた原因はオレにもあると言えなくもないしな」
「でもそれは双葉ちゃんを助けるためでしょ?」
「まあな。何より、由依をあの家から自由にできるなら安いもんだ」
「ありがと……」
他に乗客がいないことで気が緩んでいるのか、由依は頭をオレの肩に乗せてきた。
オレの耳にはパイロットの舌打ちが聞こえてきたが、知らないフリをしておこう。
「ところで由依、ヘリの行き先を知ってるか?」
「太平洋にある無人島らしいよ。地図にも載ってない島だとか」
多少派手なことをしても大丈夫ってことか。
ヘリで行ける距離なら、オレが由依を抱えて飛んでいくことも可能だ。
だがせっかくなので、由依との遊覧飛行を楽しむとしよう。
一緒に海に行く約束をしていたが、こんな形で果たすことになるとは思わなかったな。
いや、無事に帰ったら今回のこととは別に、一緒に遊びに行くことにするか。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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