8章:ブラッディドリーマー(24)
視界が完全な闇に染まり、全身の感覚がなくなってどれくらい経っただろうか。
急に目に光が飛び込んで来た。
ここは……ラジオパーソナリティーを案内した控え室の前。
記憶は……残っている!
成功だ。
双葉の神域絶界の中にいれば、時間跳躍によるリセットの対象外になる。
由依も双葉もそばにいないということは、位置はリセット対象か。
ヴァリアントの顔も覚えている。
オレは由依に電話をし、双葉と共に体育館へ集合した。
「カズ!」
「お兄ちゃん!」
二人とも鬼気迫る表情だ。
「記憶は残ってるな?」
オレの問いに二人は同時に頷いた。
問題はどうやってヴァリアントを退治するかだ。
おそらく、体育館に展開される結界が、時間移動の条件の一つだろう。
ならば、結界を展開される前に倒したい。
オレの魔力弾が消されたのも、時間移動関係の応用だろう。
もちろん結界なしでできる可能性もあるので、油断はできないが。
あのヴァリアントを『ヴァリアントであること』を起点として探知するのは困難だが、彼女自身の魔力パターンからなら可能だ。
時間転移前に覚えておいた。
オレはその魔力パターンを探る。
………………いた!
まだ目視はできないが、ちょうど体育館に向かってくるところだ。
オレは由依と双葉を、ここから見えない位置へと遠ざけた。
三人そろっていては、記憶が残っていることを感づかれるかもしれないからだ。
由依達が身を隠したのと同時に、廊下の角からヴァリアントが姿を現した。
「ああいたいた。すみません、学校祭実行委員なのですが」
オレは営業スマイルでヴァリアントの女に近づいた。
「……なんでしょう?」
一瞬警戒した彼女だが、オレの記憶が残っていないと確信したのか『人間らしい』笑顔で応対してきた。
少し考えれば、それでも警戒すべき場面だとわかるはずだ。
逃げをうつ判断の早さから、用心深い性格なのだろう。
それでもなお、本人にそのつもりがなくても、根本的に人間を舐めている。
こういったところが、ヴァリアントの弱点だ。
「他のお客さんから苦情が来てまして、探して欲しいと言われた相手の容姿があなたにそっくりなんです」
「何があったか知らないけど、関係ないわ」
ヴァリアントの女は露骨に不機嫌になった。
これからの楽しい食事を邪魔されたからだろうか。
「1,2分ですみますから。ちょっと顔を見せてもらえれば良いだけなんです。僕も仕事でして……どうかお願いできませんか?」
「すぐすむのね?」
「はい、それはもう」
「いいわ」
「ありがとうございます!」
ここでもめるのは得策ではないと判断したのだろう。
ループを使って逃げるような相手だ。
すぐにむちゃな暴れ方はしないだろうという読み通りである。
オレはヴァリアントを体育館の裏へと案内した。
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