どちらがお好み?4
リックは目を見開いた。
今まで大好きだ、特別だと言ってはくれていたが、あくまで人としてのこと。
仲間から告白されかけても気づかないような、ある意味たちの悪いくらい鈍感なレティが。
(嫉妬……した?)
「リック様といると暖かくて胸がキュッと締まるけど、でも心地良くて。そんな気持ちをくれるくらい、リック様は優しくしてくれるのに、……リック様の側に女の人がいると苦しくなってしまいました。私が私でなくなるみたいで怖いんです」
レティはふるっと肩を一度震わせた。
島を出てストレスが減り、料理長ジャンの気遣いもあって、体はまだ痩せぎみだけど顔色は良くなった。
そんな彼女の顔が真っ赤に染まっている。
「リック様のお側にいるのは私だけでいたいと思ってしまって、そんな私はわがままなんです。お側にいる資格もないんです……」
「そんなことない!」
思わず大きな声を出してしまった。
レティはどうしていいか分からない戸惑いの表情でリックを見る。
全く恋愛経験のないことが、レティの口から心の内の素直な気持ちをつかせた。
それはなんて、愛しくて愛しくて甘く蕩けるような気持ちを生み出すのだろう?
リックは走り出していた。それに驚いたレティが荷物を取り落とす。
抱き締めようとしたら、まさかの抵抗にあった。
「レティ、何で」
「いけません、リック様!」
目を閉じて肩を押すレティ。今度の表情は痛々しくて。
「私は……っ!ジョアンおじ様の前の方に……、毎日無理矢理裸にされていて……」
肩を押し返す力が抜け、腕を伝って落ちていく。
レティはペタンと座り込んだ。
「身体中を触られていたみたいなんです……!この間の黒船に連れていかれたときも、……本当は、服を脱がされそうになって……。私、私……っ」
「もういい、レティ」
「よくありません。こんな私、リック様を汚してしまいます……っ」
リックは床に片方の膝を着いた。下を見るレティの頬を触れば、手が湿った。
そのまま上に向けさせたら、閉じていた瞼が上に上がる。
怯えるような藍の光の中にリックがゆらゆらと映る。
「リック様……っ」
「側にいろ」
真剣で強い力を瞳に込めて、リックはレティに言った。涙溢れる両方の目にそれぞれ口づける。
「いいか、レティ。相応しいかそうでないかは関係ない。誰を自分の側に置くかは俺が決める」
「リ……ック様……っ!リック様、リック様っ。お側にいたいです!ずっとずっとリック様の……っ」
レティの言葉が途中で切れた。リックが唇で塞いで飲み込んでしまったからだ。
アプリコットブラウンのふわふわした髪ごと頭を支えるように、何度も何度も角度を変えて、たまには啄むようにして触れるだけの軽い口づけを与える。
驚いて目を見開いていたレティも、そのうち甘い感触に酔いしれて瞳をゆっくり閉じるのだった。




