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どちらがお好み?3

階段を上って甲板に降り立った。

今は昼時。


『街に行ってくる』


とユーシュテが言った時、リックは理由を聞きたがったが「女同士の買い物」だと言われ、ディノスにも宥められて引き下がるしかなかった。

そんな彼は随分時間の経った今はどこにいるだろう?

島に着いているのだし、外へ出たかもしれない。

そんな風に思ったら、食堂のドアが開いてリックが出てきた。

驚いて立ち尽くすレティ。海風が強く吹いて髪が揺れる。

ユーシュテはレティの肩を叩いて、船内に入った。


「お帰り」


リックは穏やかな声でそう言った。あのまま待ってくれているとは思わなかった。

心がキュッと締め付けられる。


「どうして……」

「レティの帰ってくる気配と足音がしたから」

「ずっと……食堂にいらしたのですか?」

「ああ。本を読んでいた」


ただの会話。それが出来るまでに随分と長い時間が経った気がする。リックの顔を見るのも同じ。


「島の街には出ていかなかったのですか?」

「レティを置いていかない。面白くない」


心がまたジワリと甘く疼く。イチゴのような、リックといるときにだけ感じられるもの。

心の急くままリックに飛び込みたい気分になって走り出そうとするが、すぐに止まってしまった。


「レティ……?」

「私……」


レティは俯く。リックはいつでもレティに優しかった。

けど、自分は物足りなくてそれ以上を求めてしまう。

それに加え、過去の記憶も一部が戻り始めて、リックの隣にいる資格がないのかもしれないと感じている。


「レティ……。その、昨日のことなんだが……」


リックから口を開いた。レティは顔をあげる。


「あれなぁ……、実は」

「リック様のせいじゃないって分かってます。だけど……」

「いや、そうじゃなくて聞いてくれ」


遮られてレティは揺れる瞳にリックを映した。


「あれ、男なんだ……」

「……男の方……」


呟いてその意味を理解したとたん、レティの目が点になった。


「えッ!!?」

「髪も地毛だし、遠目だと分からなかったと思うが……。体は作ってるし、顔は綺麗だけど男だから」

「何でそんな格好をされてるんですか?」

「まあ、……俺には分からんが、世の中には女になりたい男もいるんだよ、稀に。行った店の店主が奴で」


唖然として瞬きをする。


「その女性を目指してる人って、誰を好きになるんですか?」

「男……だな」


レティは不安と恐怖の入り交じる光を込め、少し視線を下に向けた。


「リック様は……もしかして」

「ちょっ……!その誤解だけは止めてくれ!俺は男を好きになる趣味はない」

「そうですよね……」


(あっぶねー)


リックは焦って誤解を解き、息を吐いた。


「リック様、ごめんなさい……」


レティはリックの目を見る。


「私……、リック様の隣に……女の人が居たのが嫌で……。結局女の人じゃなかったけど、あの時は嫌で嫌でたまらなくて。こんな気持ちを抱えてしまう私が、……もっと嫌だったんです」


震える体を隠そうとして、ショールごと腕を寄せる。


「こんな気持ち、知らないんです。初めてなんです。どうすれば止まるのか分からないんです」




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