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どちらがお好み?2

店から出てカフェで遅めの朝ごはんを採っているときも、耳つきのパーカーのフードを被って前はきっちり閉め、尚且つユーシュテから借りたショールで上半身を隠し、モゾモゾ動くので、呆れられた。


「怪しいから普通にしなさいよ」

「だって何か胸が急に大きくなって、落ち着かないっていうか……。恥ずかしくて」


ユーシュテは食べ終わった皿を横に避け、メロンフロートを飲んで頬杖を着いた。


(この様子だともしかして……)


「ねーえ?一つ聞いて良い?」

「な、何……?」


フードが上がり、藍の目にユーシュテが映る。


「赤ちゃんがどうして出来るか知ってる?」

「えっ……?えっと……」


レティはサンドイッチを食べながら、故郷の優しいジョアンの言葉を思い出す。


『レティの母さんはきっと、レティを【こうの鳥】が運んできたって喜んだんだろうなぁ……』


「あ、そう!こうの鳥さんが運んでくるの。愛し合って赤ちゃんがほしいなって思った人達のところに来るの!」

「……っ!!」


人差し指を空に向け、にっこりと答える。


(出た!やっぱり)


予想通りの展開に、こめかみを押さえるユーシュテがいた。








中心にはたくさんの机と椅子。囲むように棚がたくさんあり、本がぎっしり。

それが一階だけでなく、三階まで続いている。

レティは上を見上げて感心した。


「船よりもいっぱい本があるー」

「当然よ。この街の図書館だもの。さ、どこでも良いから座って待っててちょうだい」


ユーシュテに言われ、近くの椅子に腰を下ろした。

彼女は側を離れ、壁に貼られた案内図からジャンルを見つけてどこかに行ってしまった。

そしてすぐに戻ってくる。


「読み書きや計算はできるから学校には行ってたんでしょうけど、そこでこう言うことは教えなかったのかしら」


ユーシュテは一冊の薄い本を置いた。

題名に【胎内での子どもの成長】とある。


「あのね、確かに子どもが出来ることは奇跡的に幸せなことなの。だから『こうの鳥』の『こう』を幸せと掛けて、こうの鳥が赤ちゃんを運んできたって表現したり、そういう絵本があるのは確か」


レティに勘違いを教えた人物が、『嘘を教えた』と思って傷つかないように、ユーシュテは前もってフォローを入れた。


「けど、実際はこうなるの。本のタイトルの胎内っていうのは、私たち女性のお腹の中のことよ」


本が広げられる。一ページ目には女の人のイラストがあった。ユーシュテは卵巣を指で叩いた。


「ここに元々子どもを作るために卵子……早い話が卵ね。それがあって、月に一回子宮に来るの」


もう一ページ捲る。そこから先は写真だった。レティは怪訝な顔をした。


「卵に髭が生えてる……。白いおたまじゃくし?」

「髭じゃないの。これ、『精子』っていって、女の人にはなくて男の人から貰うのよ」

「どうやって?」

「うーん……。まあ、そこは……そうね、リチャードに聞いてちょうだい」


口で説明するのが難しく、且つ長くなって面倒なため、ユーシュテはリックに丸投げした。


「この精子が卵子の中に入ったら赤ちゃんが出来るの。もし、精子が入らないままだったら月に一回生理が来るのよ」

「ふうん」

「で、ここから赤ちゃんが出来る様子ね。見て」


ユーシュテが二人の間においていた本から手を離した。


「これ、トカゲみたい」

「そうね」


初期の頃の子どもの写真を指指してレティが言う。トカゲみたいな姿から大きくなり、成長を続ける子ども。


「お腹の大きな女の人を見たことくらい有るでしょう?」

「うん」


ユーシュテから言われて頷くレティ。


「子どもが大きくなるからよ。肥満だからじゃないわ」

「あんなに大きくても破れないなんて、すごいねぇ?」

「そうね」


ふふふとユーシュテは笑った。


「約十ヶ月経ったら、子どもが出てくるの。狭いところから出てくるから、お母さんも痛いし子どもも苦しいの。女は強いのよ。それでも耐えられるんだから」

「どのくらい痛いのかな……」

「さあねー。あたしも経験ないから、何とも言えないけど。それが分かっててもやっぱり子どもは欲しいわ。いつかね」

「ディノス様の?」

「彼以外の人の子どもなんて産みたくないわ」

「そっかー。そうだよね」


レティもぼんやり想像した。小さな赤ん坊を抱くリックは、とても優しい顔をするに違いない。

そう思って、ふと昨日のことが頭をついてしまって少しだけ鬱な気分になった。


「さ、船に戻るわよ」

「うん」


ユーシュテは本を戻しに行った。レティも下着の入った紙袋を持って立ち上がる。

しっかりショールの前を握りしめて、ユーシュテと揃って図書館を後にした。




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