どちらがお好み?
ドアを閉めてこちらに来るユーシュテに、レティは小さな声で問う。
「リック様もやっぱり、胸が……大きい人がいいのかな……?」
「ま、男が自分の体にないものに惹かれてるのはあるわね。けど、それだけじゃないでしょ」
ユーシュテはしゃがんでレティを横から見る。
「別にレティの胸が大きくてもなくても、あんたがいいからリチャードは連れてきたんでしょう。それだけじゃ不満?」
レティは頭を振った。ユーシュテは微笑み、レティの腕を引っ張って立たせた。
「じゃあ、丁度いいわね。出掛けましょ」
「どこに?」
「そんなの決まってるじゃない」
ユーシュテの目がキラッと光った。
「いや……、ちょっと。や、ああっ」
レティの悲鳴が響く。
「観念しなさい」
「ダメ……っ!それはダメぇ」
裸の胸を腕をクロスさせることによって隠す。
「嫌がると余計にやりたくなるのよねぇー?それっ!」
楽しそうな声。赤く塗られた爪を乗せた手二つに両手首を纏めて掴まれ、壁に固定されてしまう。
「今よ」
レティの胸を白く細いものが回った。冷たい感触に下から上に鳥肌が走る。
「ああっ!」
「トップが九十三、アンダーが七十ですね。Fカップです」
店員がメジャーを解き、ユーシュテもレティの腕を解放した。
「やっぱ、あたしより大きかったか。Eは結構大きな方だと思ってたんだけど。越されるとは」
「洋服の上からじゃダメなの?裸なって恥ずかしい思いするなら、下着つけなくていいのに」
「バカ言わないのっ」
ユーシュテが、試着室から顔を覗かせたレティのこめかみにチョップを入れた。
「良くないわよ。サイズはこうやって直に図るの。じゃないと、下着がずれたり落ちたり、着けてて気持ち悪くなるのは自分よ」
「だから着けなくても……」
「すみませーん。何かおすすめなデザインあります?」
レティの小さい呟きは無視し、ユーシュテは店員の女性と並べられてる下着を見て回る。
「これとかどうでしょう?」
深緑の下着を店員が勧める。
「うーん。あの顔にはちょっと合わないわね……」
「どんな色が宜しいですか?」
「あの子には原色カラーより、淡いのがいいと思うの」
「でしたら、薄ピンクとか空色はいかがですか?」
「良いわね。見るわ」
「此方が人気のデザインでございます」
ユーシュテが色々手にとって幾つかを持ってくる。
「これ着けて」
「えー」
「つべこべ言わない!」
燃える瞳に睨まれて、レティは商品を受け取って着けた。
カップはピッタリ体にフィットした。
「どう?」
「きゃあああ!」
カーテンを半分開けて広い試着室に入り込まれ、レティは驚きの悲鳴を上げた。
「ユースちゃん、急に開けないでぇー」
「女しかいないし、窓とかドアのすりガラスの上にカーテンやブラインドがあるから大丈夫よ」
「そういうことじゃなくって……」
反論するレティの腕に、緩い紐がポロリと落ちた。
「着たときに肩紐の長さは調節するの。良い年して子どもみたいなブラ着けてるから、こんなことも分かんないのよ。全く」
ユーシュテは長さを調節した。すると、胸が支えられて動きやすくなったようだ。
真ん中に小さなリボンが着いた薄ピンクが基調で、少しだけ黒いレースが縁取りをするオシャレで可愛いデザインだ。
同じデザインの水色や他のものも着けさせられ、ユーシュテが紐を調節した。
「これ貰いまーす」
床においていた全部を指差され、レティは慌ててユーシュテの腕を握る。
「え。でも、一着四千五百ルークもするよ!」
「妥当な値段よ」
「たっ、高い!せめてこれとこれだけにして!お願いっ」
現在つけているのと最初のピンクのを持ち上げて、レティは言った。
「……しょうがないか。とりあえずお試しして、良さそうだったら出航する前に買いだめすれば良いわね」
一旦ユーシュテは納得してくれて、レティは安堵の息をつくことができた。




