加速する初めての気持ち2
「ねーぇ?」
大浴場の湯船に浸かって目を閉じている時、髪や体を洗い終わったユーシュテが入ってきて、声をかけられる。
「レティさ、リチャードのことはどう思う?」
「どうって、大好きだよ」
「それってあたし達と同じ意味?違う意味?」
「分かんないよ……」
レティは深くお湯に体を沈め、ブクブクと泡をたてた。
「でも今日、リチャードがキスされたとき嫌だったんでしょ?」
「その話は嫌……」
膝を抱えて俯く。思い出したら心が痛くて平静でいられない。
こんな気持ちは知らない。今まで感じたことがないのだ。
「私がいた島でもリック様は女の人を連れてた。その時も変な気持ちになった。けど今日の方が……。私が私じゃなくなっちゃう」
「そう言うのを嫉妬って言うのよ」
「しっぽ?」
「しっ・と!しっぽ生やしてどうすんのよ!たちつてとの『と』だから。あたしがあんたに嫌がらせしてたのも、同じ気持ちからよ」
レティはユーシュテが大騒ぎして、ディノスに泣きついたときのことを思い出した。
『許せなかったのよ。別に他意はないって分かってても』
『私以外の子に優しくしないで!』
あの日は分からなかった。ユーシュテの気持ちが今ならわかる気がする。
「ごめんね、ユースちゃん……」
「いいわよ、もう」
「ねぇ、そう言えばユースちゃんが言ってた『たい』って何?お魚?」
「それは鯛でしょ……。あたしが言ったのは他意。あんたどんだけ物を知らないのよ」
ユーシュテは呆れた声を出す。
「浮気心を出していなくてもって意味よ、この場合は。レティに惹かれて優しくした訳じゃなくても、あたしの前でそれをするのが嫌だったってこと」
「ディノス様、優しいもんね……」
「そうよ。いつも考え事をしたときに眉間が険しいから、恐がる人が多いけど。良く分かってるじゃない」
「うん。確かに最初は恐いのかなと思ったけど、お話はちゃんと聞いてくれるし」
「リチャードも優しいでしょ?」
「うん……」
寝るときに抱き締めてくれて、緊張すれば解してくれて、危険が寄れば助けてくれる。
気にかけてくれて、たまに意地悪なのかドキドキさせて。
「ちょっと、一人でニヤけないでよ」
「ぷふっ」
ユーシュテが手で水鉄砲を飛ばし、レティの顔にかけてきた。
顔を両手で擦って水を落とし、ユーシュテを見た。
「別に良いんじゃないの?多くを望んだって。あんたも船に乗ったからには海賊でしょ?」
「え?」
「ちょっと……。自覚しなさいよ。捕虜でもないのに海賊船に乗ったらそうなるでしょうよ。我慢して縮こまってちゃ、船長の女なんか務まらないわよ」
ユーシュテが湯船から上がり、レティもそれに続いた。
風呂場のドアを開けて、体を拭く。
「……で、リチャードのこと、どうなのか分かった?」
「お側にいたい。私もリック様に私だけを優しくしてほしい」
「それが恋なのよ」
ユーシュテが微笑んだ。
「あたしの知ってるリチャードは、そう言うのをちゃんと受け止められるわ。これだけ多くの人が集まるとね、色んな事情を抱えた人も来るの。それも受け入れてるから船長できるんでしょ。だから、あんたの気にしてることなんて、あんたのちっぱいより小さなことよ。リチャードを信じてあげて」
「またちっぱいって言うぅー」
「しょうがないじゃない。そうなんだもの」
ユーシュテはワンピースを着て、レティに意地悪な笑いを向けた。そして下着姿の彼女を見て固まった。
「レティ……あんた」
「はい?」
身に着けているのは、真っ白な……。
「何それ」
「何ってブラ……」
「そんなのブラジャーなんて言わないわよ!?それ、十代の前半の子が初めてつけるやつでしょ!」
レティの言葉の上から重ねて言い、勢い余って首を締めてしまった。
「いい加減にしなさいよ!?」
「ユースちゃ……っ。く、苦し……っ」
「そんなんだからちっぱいなのよ!色気もくそもない」
ユーシュテは首から手を離す。
「決めたわ」
「けほっ……。決めたって何を?」
浅く呼吸をしながら、自分より背の高いユーシュテを見上げるレティ。
「あたしがあんたを教育するわ!」
「ええ――?」
「えーじゃないっ。そんなんでリチャードの所に返せるか!」
胸の前に拳を作ったユーシュテの瞳とオーラが燃えていた。




