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加速する初めての気持ち

現状をどうにか見れるようになったレティを背負い、ディノスとユーシュテは船に戻った。

リックの部屋に戻せないので、ディノスの部屋のソファに座らせ、ディノスはリックを迎えに外へ出た。

食堂から飲み物を運んできたユーシュテが、マグカップをレティに差し出す。

膝を抱えてソファで縮こまっているレティは、それを受け取った。


「飲みなさい。落ち着くから」


喉を潤したら、鼻の奥にカカオの強い香りが抜けた。

ユーシュテも隣に腰を降ろす。


「おかしくなったのはリチャードのことだけじゃないでしょ……」

「……」

「抱えてること、リチャードは知ってるの?」


レティは頭を振った。


「言えないよ。リック様に……」


聞かせたくないし、言いたくない。もしも知られたら。――嫌われてしまうかもしれない。

そう考えたらゾッとした。


「ユースちゃん……。引かないでね……」


レティはリックにさえ隠していることをユーシュテに話した。

先日囚われた敵船で受けたこと、そこから欠けた記憶の一部が戻ったこと。

小さな声でつっかえながら話し、ユーシュテは静かに聞いてくれていた。


「私、リック様にたくさん助けてもらった。これ以上重荷になりたくない」

「あたし、あんた達はてっきりあたし達みたいな関係なんだと思ってたわ」

「違うよ」


レティは悲しそうに笑う。最初、そんなことは望んでいなかった。

それなのに、今はどうだろう?


(この子が黙っていたせいとはいえ、まさかのリチャードが傷口に塩を塗り込むなんて皮肉なものね)


ユーシュテは上を向いてため息をつく。


「そんなんで、今日リチャードの部屋に戻れるの?」

「……」


考えていなかった。

俯くレティから気持ちを読み取り、ユーシュテは立ち上がる。


「ユースちゃん?」

「今日は部屋に戻らないんでしょ?あたしから言っといてあげるわ。ココア飲んでなさい」


そう言ってレティを残し、ユーシュテは部屋を出た。


(何ですれ違ってんの、あの二人は)


それから、ため息をつく。


(……てか、あたしってばあんなにレティを苦手にしてたのに、いつのまにか世話焼いちゃってるんだもの。何やってんだか)


甲板に出て壁に寄りかかり、リックを待った。

そんなに待たず、話しながら戻ってくる声が聞こえてきた。


「レティは部屋か?」


ディノスに問いながら、リックが甲板に上がってくる。そして、ドアを塞ぐように立つユーシュテに気がついた。


「何やってんだ?そんなとこで」

「レティは今日、預かるから」

「はぁ?」

「リチャードの部屋には戻さないって言ってるの!」


リックの眉間が寄る。


「何があった?」

「一部はあんたが自分で招いたことよ、リチャード」


訳がわからずに隣に立つディノスを見るが、答えがない。

ユーシュテがドアから背を離し、リックの襟に手をかけて自分の方へ引く。

前のめりになったリックの頬を思いきりつねった。


「自分に聞いてみればわかるわ」

「ってぇ!」


リックは反射的に頬を押さえた。

ユーシュテを睨んだら、いつもと違って本当に怒っているらしいとわかる強い目線とぶつかる。


「あの子、あんたの為に話せないことを抱えてんのよ?それなのにあんたは何?油断して他の女近づけてんじゃないわよ」

「女……?」


リックは妙な顔をして、それから自分の中で何とも思ってなくて消去していた記憶を戻す。


「煮えきれないなら、中途半端に優しくするんじゃないわ」

「あれ、レティが見たのか?」

「そんな目立つ格好じゃ、否応なしに目につくでしょ?」


自分の行いに腹が立ち、リックは舌打ちをした。


「まあ……他にも色々あって。今は話せる状態でもないから……。分かって」

「……分かった」

「レティは貴方に助けて欲しかったのよ、リチャード。貴方に助けてほしいの、いつも。忘れないで」


ユーシュテはそう言ってドアを開け、中に入った。

ディノスはリックの肩を叩いて、ユーシュテの後を追う。


「珍しいな、ユース。レティアーナを預かるって言い出すとは」

「初回限定の気紛れよ」


これが強がりで意地っ張りなユーシュテの優しさだと言うことを理解しているディノスの手が、彼女の頭をそっと撫でた。





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