焼け焦げる胸と芽生える感情4
「これとか良いんじゃない?」
クリーム色に焦げ茶色のチェックのワンピース。
膝より少し上の丈で、腰は縫い付けられた黒いリボンが一周して前で蝶々結びされていた。裾にはレースもついている。
「あとはねぇ……」
裾に花と草の模様が刺繍してある、薄いグレーのスカート。
袖がレースでできたイエローのトップス、水色に小さな花模様が散ったワンピース。
「ちょっと試着してきて」
レティを試着室に連れていき、ユーシュテが自分チョイスのものをすべて着せる。
「お、似合うな」
「流石ユースだな」
「私、ユースちゃんのがいい……」
満場一致だった。服を抱えて試着室から出てきたレティは、あるものに目を止めた。
「あれ、可愛い。フードに耳がついてる」
小さな猫耳がついたグレーのパーカー。
「じゃあ、それも買おう」
リックはレジにいた店員に手を上げ、会計を指示した。
買い物袋を持ったリックとレティ達は外に出た。
「悪いがこれ持って、レティとカフェでコーヒーでも飲んでてくれ」
リックは袋をディノスに持たせる。
「ちょっ……。どこ行くつもり、リチャード!」
「私用があるんだ。レティを一人にしておくと危ないからな。すぐ戻るから、一緒にいてくれ」
「もーっ。そんなに心配なら連れてけばいいじゃない!」
ユーシュテの言葉に手を上げて、リックは歩いていく。頬を膨らませる彼女をディノスが諭す。
「諦めろ、ユース。リックはああいう奴だ」
「全く……」
「二人の邪魔しちゃってごめんね」
「別にあんたに言ってる訳じゃないからいいわよ」
ユーシュテはため息をついて、カフェに向かって歩いた。
「美・味・し・いぃー」
頬に手を当てて、大きなパフェを食べるユーシュテ。
フルーツタルトにフォークを入れていたレティは感心する。
「ユースちゃんって、結構食べるよね」
「だからおっぱ……」
「ユースは大きくなった体で消費するエネルギーが基本になってるから、俺達と同じような量を食べるんだ」
『だからおっぱいが大きくなれるのよ』と、恥ずかしい言葉を言われる前にディノスが説明で阻止した。
それからカフェラテに口をつけてたしなめる。
「ユース、頼むから外では言葉を選んでくれ」
聞いているのかいないのか、次々にスプーンを運ぶユーシュテ。
その様子を見ながら、ディノスは手を伸ばす。
「口元についてるぞ、ユース」
指でチョイチョイとチョコクリームを拭い、ディノスは指を舐めた。
「!」
側で見ていて恥ずかしくなってしまい、動揺してフォークをとり落としてしまった。
カシャンと、テラスの石床にフォークが落ちる。
「もー、何やってんのよ」
「だって……」
慌てて椅子から降りてそれを拾い上げ、また立ち上がる。
ディノスが手を上げて店員に新しいフォークを頼んでくれた。
「ありがとうございます。ディノス様」
椅子に再び座ろうとして、あるものが目についた。
さっきよりも激しく動揺して、テーブルにぶつかる。
パフェのグラスが傾き、ディノスのカップの中身が揺れる。
ディノスが冷静にカップを手のひらで覆い、パフェのグラスをつかむ。
「今度は何!」
ユーシュテはレティを見つめる。
「リック様……」
「?」
レティの視線の先には、噴水の向こうの少し離れたところにいるリックがいた。
その姿が見えたらいつもは嬉しそうにするのに、今回は瞳が不安に揺れた。
それもそのはず、リックは女と話している。
見ないようにしようと思っても、レティの為にと着たあの赤い色はどうしても目立ってしまって。
ユーシュテもディノスも気づいて、レティと同じものを見ていた。
女は笑いながらリックを見ている。
そして腕をリックに伸ばして首に抱きつくようにして、頬に唇をくっつけた。
ズキン!レティの心が貫かれたように痛む。
「ちょっ……、ちょっとアイツ!」
ユーシュテは立ち上がる。
リックを呼びにいこうとした彼女の腕を掴み、ディノスが止める。無言で頭を振ったあと、震えるレティへ視線を移す。
同じようにして彼女を見たら、藍の瞳が限界まで潤っていた。
「だ、大丈夫だから!ね?あの女とは何もないわよ」
肩を掴んでユーシュテが慌ててフォローしてくれる。レティは下を向いた。




