焼け焦げる胸と芽生える感情
疲れを癒すためにぐっすり寝入ってしまったせいで、再び目を覚ましたのが夜だった。
料理長が作り置きしてくれていたおにぎりを食べ、お茶で喉を潤し、歯を磨いてまたベッドに入っても寝られないのは当たり前だった。
電気を点けて起きてて良いとリックから言われたけど、一人で起きているなんて嫌でベッドに入ったものの、目は冴えて寝返りを打つばかり。
「寝られないんだろう?」
後ろからレティを抱き締める形で横になっていたリックが囁いて、髪に唇を押し当てた感触がした。
「話すか?」
「はい……」
リックの眠りを邪魔してしまうのが申し訳なくて、でも一緒に時間を過ごしてほしくて甘えてしまった。
「何か聞きたいこと……あるか?」
少し考えて、レティは二つの疑問を思い付いた。
「リック様は、どうして海賊になられたのですか?」
「ん……。酒場にいたし、マスターは新聞くらい読んでただろう。だから、ここ数十年の間、海賊の数が急に増えたのはレティも知ってるよな?」
「はい」
「じゃあ、そいつらが航海をして、最終的に目指しているものが何かは知っているか? 」
「……それって何ですか?」
「分かった。そこからだな……。それは昔、とある海賊船の船長が書き遺した航海日誌が見つかったことから始まったんだ」
【光の楽園】
その存在は、昔から伝説のように海賊の内で語られていた。
光り輝く世界。そこへ辿り着いた者は、全ての欲を満たされる。楽園に近づいて女神に会い、導かれて入れる世界。何処かの海の果てに存在すると言われていた。
半信半疑かそれ以下。夢や幻と同じものだと思われていた。
だが、海を漂っていた無人の船――いわゆる幽霊船が回収され、そこから船長がつけていた日誌が見つかった。その内容は世界に衝撃を与えたのだ。
「実際に楽園の存在はあったと、そこに記されていた。その地から出て朽ち果てたからなのか、楽園に住みついて棄てたから船が幽霊船になったかはわからない」
「そうなんですか。リック様も見てみたいですか?」
「そうだな。俺は永劫そこに住もうとは思わないが、この目で見てみたいと思う」
「私もです。楽園だと言うから、お花が咲いてたり蝶々が飛んでたりするんでしょうか」
「どうだろうな。だが、レティがそういうところだと思うなら、そうなんだろう。その楽園は見る者によって違うように見えるそうだ」
そう言い、レティの耳の側でリックは欠伸をした。
「リック様、やっぱり眠いですか?」
「んん……、まあな」
答える声が気だるそうで、眠気を含んでいた。
「そしたら寝ましょう。お話ありがとうございました」
「大丈夫か?レティ」
「はい。私も寝ます」
「そうか。……そうだ、レティ。早ければ……明日に新しい島に着くぞ」
そう教えてくれて、すぐにリックの寝息が聞こえた。
まだ眠気は来てくれなかったけど、レティも目を閉じて休むことにした。




