狙われた歌姫と現れた鳳凰7
持ち前の動体視力で銃弾の道筋を見極めたリックは、体を少し捻ってかわし、同時に鳳凰から飛び降りてマストに移った。
金属のぶつかる音。リックの剣と、それを受け止めたアイトールの金の銃身が交わる。
カメレオンと鳳凰も睨み合い、戦闘になった。
襲いかかる舌も翼もお互いにすれすれで避け合う。カメレオンはぼやけて姿を消した。
鳳凰は首を左右に向けて姿を探すが、景色と同化して見つけることが出来ない。
渾身の力を武器に掛けながら押し合っていたリックは鳳凰に気づき、大声を出す。
「目で追うな!惑わされるぞ!音と気配で追えっ!」
鳳凰は目を閉じ、耳を澄ませた。
「戦いながら余所見とは良い身分だな」
「前しか見えないようじゃ、仲間の命なんか預かれないんだよ!」
お互いに一度離れ、武器の先を向ける。
「グダグダしてる暇はない。さっさと終わらせてレティを連れて帰る」
「良いだろう。この一度で勝負だ。この狭い足場では避けられんぞ。次は外さない」
鳳凰が、マストを支える柱を登る微かな音から敵の気配をとらえた。
キイイイイッッ!一度飛び上がり、はためかせる翼から連続して風の刃を出す。
刃が全てカメレオンに命中。食い込んでマストをへし折った。
一方折れたことにより立っていたリックたちの足元も揺らぎ、アイトールは全然違うところに銃を放ってしまう。
的を捉えたリックの耳に、小さな声が入ってきた。
「リック様……」
口角を上げたリックは目にも止まらぬ速さで踏み込み、アイトールに一撃を当てた。
黒船の主とカメレオンが傷だらけになって、崩れるマストと共に下へ落ちていく。
リックも安定の悪さに落ちかけ、足場だったところに片手で掴まる。
そのリックを飛んできた鳳凰が拾い上げた。リックは剣を鞘に戻した。
鳳凰と共に上へ上がってレティを見るが、相変わらず顔が俯き加減のままリックに気づかない。
「レティ!レティ!」
呼んでみるものの反応がないままだ。
(どうする?)
考えを巡らせていると、レティの口が動いた。
「リック……様……、ど……こ……?」
自分を探している、求めている。リックは心を決めた。
(飛び込んでみるしかない)
「俺をあそこに連れていけるか?」
聞けば、此方をちらりと見た鳳凰が頷きを返した。
斜め上に飛んで距離を取り、それから急降下して突っ込んだ。
星の守りにぶつかった鳳凰は形を失って風となり、宙に消えてなくなる。
ところがリックは星の中に驚くほど簡単に入ることができた。
透明な床を進み、自分を待つ少女の前に立った。
離れて少ししか経ってないのに、気の遠くなるほどの時間が過ぎたのではと思ってしまう。
リックは手を伸ばして、レティの髪を撫でた。
(やっと、連れて帰れる……)
華奢な背中に手を回し、抱き締めた。
「待たせてすまなかった。迎えに来たぞ、レティ」
リックの声に細い肩が反応し、レティの瞳に失われていた光が戻る。
「……リック様?」
「そうだ。一緒に帰ろう。また、俺のために歌ってくれるか?」
「私……っ」
懐かしい声と温もりと優しさ。自分を抱く逞しい腕を感じて、レティはリックのシャツを握りしめた。
「リック様のところに帰りたい……っ!リック様のお側で歌いたいです……」
足元に亀裂が入った。レティの拒絶する心を溶くように金色の翼が消え、クリスタルも粉々に割れて無くなる。
レティを片手で抱いて落ちるリックは、空いた手を上に向けた。
「風は何度でも甦る……」
その言葉通り、風が一ヶ所に集まって再び鳳凰が現れた。二人を背中に拾い、沈む黒船から飛び去る。
安心して意識を放してしまったレティを脱いだジャケットで包み、膝の上に抱き直していたら前方から声が聞こえた。
それは自分の家でもある船と、たくさんの歓声の声。
「もうすぐ着くぞ、レティ……」
リックは眠るレティに囁きかけた。




