酒場で見つけた天使5
船長の目付きがこれでもかと言うくらいに最大に殺気を帯び、隆々とした筋肉が音をたてる。
そこから作られた大きな拳が高く上がり、振り下ろされた。
「やっ……」
レティはジョアンの身体で縮こまり、顔を手で覆う。
けれども痛々しい音が耳をつくことはなく、パンという軽い音がした。
指の隙間からレティが目を開けたら、細身の彼が筋肉の塊のような腕を片手で掴んで動きを阻んでいた。
「なっ……!?」
まさか防がれるとは思わなかったと、船長の顔が語っていた。
カウンターから男が降りる。船長は自然と後ろに下がった。
「いいか、先に手を出したのはお前だ」
閉じられていた男の目がゆっくり開く。現れたのは、狼のような鋭い光を宿したグレーの瞳。
「伏せな」
短い一言。誰に向けられたのか察知したジョアンが、レティの頭を自分の胸に押し付けて二人でしゃがむ。
「ぐ……あ……ぁっ?」
同時にカウンターから呻き声が聞こえる。
メリメリッと音がしそうなほど、堅いであろう船長の腹部にめり込む肘。
やや怯んだその隙に、男は片足を軸にして身体を回した。その力を利用して、船長を蹴り飛ばす。
ドゴォォオン!!!
しゃがんだレティ達の上を風が通った。船長の身体はドアごと吹き飛ばされ、街路で土煙を上げた。
「てめぇえええっ!」
「よくも!」
「覚悟しろォ!」
「殺っちまえ!」
ナイフや剣を振り上げる残りのクルー達が、船長の仇と一斉に男に襲いかかる。