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狙われた歌姫と現れた鳳凰3

五分ほど経ち、リックは左手の拳に力を込めた。 怒りに呼応するように足元に円状の風が起こる。

常々片目を隠していた眼帯に指を掛け、引きちぎった。


()られて、たまるかぁっ!」


グレーの瞳の中に様々な模様の入り交じった魔法陣が映り、それと同じ模様だが大きなものが足元に出てきて青白く光った。


「鳳凰降臨!」


上を向いたリックの目から薄い緑の風が絡まり合いながら上に登り、それが大きく広がる。

キイイイイイッッ!

空を突き抜ける高い鳴き声を上げ、とてつもなく大きな体をした鳥になった。

光加減で金にも緑にも見える六枚の羽を、バサバサと上下させる度に大きな風を生む。


「リック!」


船上に吹き荒れる風圧にユーシュテを飛ばされないよう胸に庇いながら、いつの間にか階段を上がってきたディノスが声を掛ける。


「一人で行くな!あの船はお前と同じものを持ってる。あれはカメレオンだ」

「大丈夫だ。今は待っている時間はない。ディノス、少しの間船を頼む。俺は必ずレティを連れ戻す」

「……わかった。だが無茶はするな。体勢が整い次第、俺達も援護に向かう」


リックの瞳に込められた燃えるように強い光から、止めても無駄だと察したディノスは引き下がった。


(隠れても無駄だ)


「俺を敵船の黒船に連れていけ!」


リックの言葉を聞き、鳳凰が了承の意に高い鳴き声を放つ。

リックは鳳凰の背に飛び乗り、羽ばたいて空を飛んでいった。





恐怖に支配され、リックの姿を見失った途端に意識を無くしたらしい。


「……?」


レティは酷く重い体を起こした。

見たことのない部屋。紫色のレースがかかった天涯つきのベッドにいる。

徐々に覚醒する頭が、自分が何故ここにいるのかを思い出させた。


それから自分を見ていた痛々しい表情を思い出し、心がキュッと痛む。

助けを放棄したわけではない。レティには分かっていた。助けられなかったのだ。


「リック様……」


小さな声で呼んだら、起きたことに気づかれたらしい。男にしては高い声がする。


「おや、気がついたかな?歌姫」


レースの合間から見たことのない顔が覗く。


整髪剤を使ってオールバックにされた、テラテラと光る黒い髪。

何を考えているのか分からなくさせるような細長い目。顔の輪郭も背丈も手足もひょろ長い。

趣味の悪いエンジ色のスーツ、金の腕時計にシャツの合間から見えるネックレスが無駄にギラギラしていた。


「どなた様ですか……?」

「海賊、蜃気楼の船長アイトール様だ」


自分に様をつけ、男は名乗る。


「月夜の海に響き渡る歌声を聴いたよ。世界中どこを探しても、キミのような声は見つからない。手に入れたくて仕方なかったよ」

「でも、私……」

「随分と、あの小さな船の船長に寵愛されていたようじゃないか?だが、あの船とは比べ物にならないくらい、私が愛し尽くしてやろう」


他の海賊船を見たわけではないが、リックの船はそこまで小さくはない。

少なくとも、故郷の島に来ていた大きな商船より大きなくらいだ。

そもそも、成金で作られたようなこの黒船がやたら大きすぎるのだ。


長い手が伸びてきて、アプリコットブラウンの髪ごとレティの頬に触れる。


「欲しいものは何でも与えてやろう。その代わり、その声を私に捧げるのだ」


レティは目を強く閉じて顔を背けた。


「私、何も欲しくありません」


多くを与えられなくても、リックのくれた環境がとても幸せだから。


「ただ、リック様のところに帰りたいです」

「いけない子だね」

「あっ!」


アイトールはレティの二の腕をつかみ、ベッドに沈めた。

きつい香水の匂いがレティの顔を歪ませる。


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