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揺れるのは周りの心ばかり?7
宵闇に浮かぶ月に照らされる船。元々かかっている特殊な効果で外から見つかりにくいのだが、外観が黒いので、月明かりさえなければ闇に溶けているように感じる。
ワイングラスを片手に、ガウンを羽織った男が船上を歩く。周りにいる仲間たちは、彼に対して腰を折った。
風呂上がりで整髪剤は使っていなかったが、適当に撫でつけてオールバックになっている。
鋭い目が、猛禽類のようだ。
宝石をはめ込んだ指輪がワイングラスに当たり、カチカチ音を立てている。
船上を風が吹き抜けた時だった。
闇の中にはふさわしくない音が聞こえた。
鳥のさえずりでもなく、この船で聞く声でもない。
かすかではあるが、確かに流れてくる音――いや、歌。
神の歌声かと錯覚させるほど、透き通った声。
「ほぉ……。どこから聞こえてくるんでしょうねぇ」
男は舌なめずりをした。
「是非、お目にかかりたいものです。そして必ずやこの手に掴み取る」
彼の立つ船の先端の少し下。黄色い二つの大きな目が、じっと闇を見据えていた。




