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揺れるのは周りの心ばかり?4

午後二時頃になり、食堂の前に行った時だ。

若いシェフが立ち入り禁止と手書きした紙を二つの入り口へ貼っていた。

どうしたのか訊ねたら、半年分の食料代や器具費用の集計をするらしい。

声の大きいクルーに、中で話されたら迷惑だとのこと。

喉が乾いたら、外からノックして知らせてくれと言われた。


「レティ!」


話し途中にリックから呼ばれて駆け寄ったら、「ユーシュテが呼んでる」だそう。

珍しいと思った。時間を重ねるうちに分かったのだが、リックとユーシュテは顔を合わせたら、ほぼ普通に話せないようだ。

長くなればディノスの仲裁もあるし嫌いではなく、本気でケンカをしているわけでもない。

ディノス曰く二人は悪友に近いそうだ。

それなのにリックが伝言を伝えたから、少し笑ってしまった。


「何か可笑しかったか?」

「いいえ、大丈夫です。ユースちゃんはどちらに?」

「書庫だ。俺の部屋じゃない方の。場所分かるか?」


未だたまに迷うレティのことを知っているリックに訊ねられ、頷いた。


「はい。多分」


そう言ってきたのに、思い違いをしていたようだ。

レティの記憶で書庫だったところは会議室だった。

覚えられないのは、船内がどこも似たような作りをしているからだ。


「あらー。……どうしよう」

「ちょっと!こっちよ、こっち!」


辺りを見回していたら少し先のドアが開いて、小さなユーシュテが手を振った。


「ユースちゃん」

「迷うんじゃないかと思ったら案の定ね。リチャードに連れてきてもらわなかったの?」

「覚えてるつもりで私がお断りしたの」

「もー、しょうがないんだから」


二人で書庫に入る。


「何するの?」

「本の整理よ。適当な男ばかりだから、元の場所と違うところに戻すのよ。だから定期的に整理しないと、要る時に分かんなくなっちゃうの」


ユーシュテが近くの棚を登り始め、うろうろしたと思ったら本を一冊引っ張る。


「これも違う。これ取って」


飛び出た背表紙をレティは取った。


「その背表紙の下にラベルがあるでしょ?大体大まかなジャンルと作者で分けられてるの。最初のアルファベットが棚、数字がドアの手前から数えた場所よ。一番手前なら『1』になるわね」

「へぇー。リック様の部屋に隣接した書庫もそうなの?」

「あそこはリチャードかディノスの使用が主で、あの二人は場所を把握してるしきちんと元に戻すからラベルはないわ」

「そうなんだ」

「仮に他のクルーが使うとしても、きちんと戻すでしょうね。二人の機嫌を損ねたくないでしょうから」


ユーシュテの言葉にレティは笑った。


「本題に戻すけど、あたしが違う本を探し出して一ヶ所――そうね、あそこのテーブルに積み上げるから、貴女は正しいところに戻して。分からなくなったら聞いて」

「分かった」


そうして二人とも作業に取りかかった。


ユーシュテは五、六冊重ねた本を大きくならずに下から抱えたまま、何往復もする。

軽々走り回って運ぶものだから、レティは感心した。


「ユースちゃん、力持ちだね」

「人間みたいに(やわ)じゃないもの。意外とタフなのよ」


次々と積み上げられていく本を最初は二、三冊ずつ抱えて戻して回っていたが、そのうちラベルのアルファベットごとに仕分けを始めた。


「あら、効率いいじゃない。レティ」

「こっちの方が一気に戻せるなって思って」

「いいことね」


そのうちユーシュテの作業が終わり、二人で元の場所に戻した。

上から見ていたら本が勝手に動いているようで、最初にそれを見たときの衝撃を思い出してレティは静かに笑った。

そうして掃除も含めて作業は三時間後に終わった。



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