揺れるのは周りの心ばかり?2
甲板にクルーが集まり、手を上げたり叩いたりしている。
輪の真ん中にはリックと先程レティに声をかけたクルー、審判役であるディノスの三人。
「リック様が見えない……」
背伸びをしても左右に体を動かしても、がっしりとした海の男たちの間から見ることができない。
「上に行きましょ!」
肩に乗ったユーシュテが洗濯スペースに指を向ける。レティは階段を上がった。
そこは人が少なく、気の効いたクルーがレティ達に気がついて場所を譲ってくれた。
「それにしても、何でリック様とゲームしてからなんだろうねぇ?」
「さぁねぇー!あたし知らなーい」
ユーシュテは肩を竦め、呆れた表情で答えた。
(憐れとしか言いようがないわ)
リックにも、挑みをかける相手にも。ユーシュテはそう思った。
『何かねぇ、リック様とゲームして勝ったら、お話聞かせてくれるんだって』
そう言ったレティに驚いた。レティの肩を両手で掴んで何と答えたのか聞いたところ。
『いいよって言った』
『あんたはバカか!』
『ユースちゃん、首苦しいよー』
思わず肩から首に手を回し、力を込めてしまった。
洗濯物を干すのに大きくなっていたから、ユーシュテの攻撃は意外と効いたらしい。レティは両手をばたつかせた。
『浮気!?リチャードを裏切る気なの?』
『浮気?何が?』
きょとんと見返されてしまい、ユーシュテは唖然とした。
(もしかして……超っ……鈍感)
「誰のためだと思ってるのよ」
「え?」
少し前のやり取りを思い出したユーシュテの呟きを聞き、レティが聞き返す。
「ちょっと、一人言を聞かないでよ。前向いてなさい」
小さな手でレティの頬を押した。
「挑戦者の希望により、剣技とする。今回は練習用の木刀を使用。それがどちらか一方の体に触れるか、降参した方が負けだ」
ディノスは淡々と説明をする。
「リチャード船長、俺は別に剣でも」
「ダメだ」
リックは木刀を払いながら言う。
「そんなことをしたら怖がらせるだろ」
リックの目線を追って上を見たら、レティがこちらを見ている。
視線に気がついた彼女が小さく手を振った。
温室育ちの彼女のことだ。
同じ船同士の仲間がケガするような真似は、確実に嫌がるだろうとリックには分かりきっていた。
「両者とも準備はいいか?」
「構わない」
「はいっ、お願いします」
審判に返事が返ってきたので、ディノスは右手を上に上げた。
「始めっ!」




