酒場で見つけた天使4
腕を押さえながら周囲を睨み付ける船長。
「誰がやりやがった!?」
だが、仲間が行うはずはない。
見覚えのない姿はカウンターの席にあった。
此方に深紅の背を向けた男は、左手で何かを宙に放り、掴むと言う仕草を繰り返している。
レティはその何かに見覚えがあった。
長年の使い込みにより最近柄が壊れてしまい、次の休みに買い換えよう。
それまでは、騙し騙し使うしかないなとジョアンは話していた。氷を砕くそれは。
(アイスピック……?)
柄がとれたアイスピックを、彼が船長に向かって投げたのだと知った。
仲間たちは、船長の怒りとカウンターの男を交互に見ながら静まり返る。
「てめぇええ!」
耳元で怒鳴られ、レティは肩を跳ねさせて両耳を塞いだ。
「俺に何した!」
男はちょうど落ちてきた柄を握り、それからカウンターに置いた。はぁ、と短いため息を吐いた後。
「……下衆な声で騒ぐな。酒が不味くなる。ここはお前たちの家じゃない」
落ち着いた男の声。そこまで大きな声を出してもいないのに、静まり返ったこの雰囲気では皆の耳に良く響いた。
はっと我に返ったジョアンがレティを引き寄せて、自分の腕の中に庇う。
「何だと!?てめぇ、誰に向かって口聞いてんだ!」
船長は大股で歩き、男の肩を掴んだ。しかし、それは瞬時に払われる。
「触るな」