謎解きの時間と小さなお友だち。6
ユーシュテが興奮して腕を上げながらキーキー言うので、このままではおさまらないと思ったディノスに、今晩は引き上げるように言われた。
そして、一時間後のベッドの中。暴言を吐かれたと言うのにレティは嬉しそうな様子。
「ディノス様に気持ちをわかってもらえて良かったですね、ユースちゃん」
「本当にレティは……」
顔を緩め、リックはレティの頭を撫でた。
(俺の気持ちもわかってほしい所なんだが……)
でも、レティに性急さを求めてもダメだ。
少しずつ、少しずつ、彼女に気づかせていくしかない。
大事に守られてこういう成長をしたのだから。それがレティの良いところでもある。
(いつかはきっと……)
いつの間にか寝入ってしまったレティをしっかり抱き、枕元の明かりも落としてリックも目を閉じるのだった。
その翌日。リックと並んで朝の食堂に入ったレティ。ディノスを見つけ、リックを引っ張っていった。
「おはようございます。ディノス様、ユースちゃん」
「んぐぅ!!?」
ユーシュテがかじっていたパンを喉に詰まらせ、ディノスが指で背中を叩いた。
そしていつものように、落ち着いて挨拶を返す。
ユーシュテが驚くのも無理はない。昨日あれだけ嫌味な発言を飛ばしたというのに、数時間後に近くに来るとは。それも、不思議なことに全く堪えた様子がない。
「おはよう。レティアーナ、リック」
喉のつかえがおさまり、ユーシュテはテーブルの上で小さな手を振り上げた。
「何しに来たのよ、ちっぱい!他の席に行きなさいよ!それに気やすくユースって呼ばないで!」
「私、ユースちゃんと仲良くなりたいの」
「あたしはする気ないって言ったでしょ!こらっ、聞いてるの!?」
レティは前の席に座り、にっこりして「可愛い」と呟きながら、ユーシュテを見ている。
マイペースなレティに、リックとディノスはお手上げだった。
その後もやり取りは続き……。
一時間後……。
「ユースちゃん、どこいくの?」
「ついてこないでって!」
二時間後……。
「これ、棚に戻すの?貸して」
「自分でやる……って聞きなさい、ちっぱい!」
三時間後……。
「ユースちゃん、手伝うよ?私、手が空いてるし」
「いい加減あっち行って!ってついてくるし!もぉーっ!こき使うわよ!?」
四時間後……。
「ちっぱい!そっちの皺広げて!次はあのシーツ干すから持ってきて」
「はーい」
五時間後……。
「ユースちゃん、ジャン様からゼリーもらっちゃったぁ。一緒に食べない?」
「いらない!」
「あーん」
「ちょっ!!な、何よ、……なかなか……美味しいじゃない」
六時間後……。
「ねぇねぇ、ユースちゃん」
「何」
今日もいい天気。青空に浮かぶ雲もほど良く散らばっていて、波も穏やかだ。
レティはユーシュテと並び、物干し竿のあるところへ続く階段の途中に腰を下ろしていた。
二人で膝に頬杖をついて、海や船の様子を眺めている。目を閉じて漣の音に耳を澄ませていたら、声がした。
「あたし……あんたのこと、そんなに好きじゃないけど……。歌は好き。……結構好きよ、レティ」
「そっかぁー。……ありがとう」
目を開けずに微笑み、お礼を言うと、また返事が返ってきた。
「純真のカタマリって感じだから、あんた。初めてのタイプで、……どう接していいか分かんないのよ。あたし、素直じゃないから……ごめんね」
「うん、……うん」
心にポッと小さな灯がついたような気持ちになった。嬉しくて、レティの頬を涙が伝う。
「えっ!泣くの!?」
驚きの声に目を開けた。ユーシュテを優しく掬い上げて言った。
「だって、嬉しいから。ユースちゃんと会えて、ちゃんと話せて嬉しいの」
「そういう所が苦手なのよ。もーっ、涙をあたしに掛けないでよ?しょうがないわね、こっち向いて」
ユーシュテはハンカチを取り出して、レティの目元を拭き始めた。
その様子を遠くから見守っていたリックとディノスは、穏やかに笑っていた。
「お前んとこの、レティに懐柔されたみたいだぞ」
「そうだな……」
彼女の想いは漣のように、誰かの心を包んでいく。
【様々な出会いの章】 終わり




