名探偵の調査といじわると副船長の秘密6
「ふぅーっ」
レティがジャグジーの泡に戯れて、大浴場で足を伸ばしていたときだった。
「……?」
何か聞こえるような気がして、浴槽から出た。
中にいたら、ジャグジーの音に紛れてわからないと思ったからだ。
「ていっ……ていっ」
確かに妙な掛け声が聞こえてくる。
(ど、どどど、どうしよう)
この船にレティ以外の女はいない。それなのに声が聞こえてくるとは。
鉢合わせ防止の札はまだ作ってない。
(あれ?そういえば、外って)
今はリックがその役目も果たしているはずだ。
風呂場の外で長い時間待っているのは、何も送り迎えだけが目的ではない。リックがクルーを中に入れるはずがない。
(誰!?)
ドアを音がでないように開けた。
(あれ?誰もいない……?)
入り口側のバスタオルを手に取り、柔軟剤で肌触りの良いふわふわに仕上げられたそれを体に巻き付ける。
すると、綺麗に畳んで棚に置いていたレティの服が、床に散らばっているではないか。
「こんなもの……ていっ!」
ポイッ。声と共に探偵服のジャケットが投げられた。
その声に聞き覚えがある。昨日の夜、レティが聞きなれない言葉を耳にしたときのものだ。
「……」
レティは棚を覗いてとんでもないものを目にした。
「こんな女っ」
中で、はぁはぁと肩を揺らしていたそれは。
レティの広げた手の平の縦の長さくらいの人形……。
(というか、女の子……)
じーっと見ているうちに、レティの目が煌めき始めた。
中の小さい人形は、こちらに背を向けていて気づいていない。思わず棚に手を入れた。
「!」
鷲掴みにされた存在が、息を飲む。お互いの目線が合った。
「わぁ――っっっ!」
「きゃ――っ!」
驚きと感嘆の声が同時に上がった。
「!」
悲鳴を聞いたリックが壁から背を離す。
「レティ!どうした!レティ!」
ドアを叩くが返事がない。
「開けるぞ!」
リックはドアを開けた。そこには、膝をついて何かを見ているレティと、何かの呻く声が聞こえていた。
「うぅ……っ!離しなさい!このちっぱい!」
「レティ……?」
「リック様っ!」
嬉々とした表情のレティがリックを見る。そして、手を差し出した。
「見てください!動くお人形さんですよっ」
「あ……?」
レティの手の中で暴れていたのは、頭にフリル付のカチューシャをつけている女。
ふわりと膨らんだ赤の袖から覗く楊枝のような腕が抵抗にレティの手を叩きまくっている。
リックは剣呑な視線を含め、目を細めた。




