名探偵の調査といじわると副船長の秘密5
「うーん。ディノス様は細やかな気配りができる、素敵な方だと思いますよ?確かに会話は少ないけど、話はきちんと聞いてくれますし、私は好きです」
「そうなのかぁ……」
そんなことを話しながら、午後はシーツの作業に夕方までの時間を費やしてしまった。
犯人を見つけると躍起になっていたが昨日の事件の手前、暗くなっての調査は気が引けて諦めることにした。
それがリックを安心させたのは、言うまでもない。
日が落ちてからは、甲板に積まれていた木箱に腰を下ろした。
沈んで行く夕陽を眺めていたら、自然と口が開く。この船について、二度目の歌だった。
海も船も鮮やかな朱に包まれて、心までキラキラ輝いて歌わずにはいられなかった。
レティの伸びやかで高く澄んだ歌声は、船内から海の上に広がる。
厨房ではご機嫌にシェフ達が最後の仕上げに取りかかり、大浴場ではクルーが浴槽で気持ち良さそうに目を閉じて足を伸ばす。
歌声に惹かれたクルーは甲板に出てきたり、食堂で休みながら聞き入った。
歌い終わった時、わっと歓声が上がってびっくりした。
いつの間にかリックもディノスも外に出てきている。
「やはり世界一の歌声だな」
リックが立ったまま、レティの頭を抱いて指先で撫でてくれた。
「ジムノペディか」
「あ?」
「はい?」
ディノスの言葉に、リックとレティが声をあげる。
「曲名だ。クラシックのジムノペディという曲だろう」
「そうなんですかぁ。この曲、ジムノペディって言うんですね……」
母親がピアノで聞かせてくれていたと言うだけで、曲名を知らなかったレティは、手の平同士を合わせて顔をほころばせた。
「よし、次の島に行ったら曲を買うか。ジムノペディ」
「いいんじゃないか?」
リックの言葉にディノスも頷いて、レティも嬉しくて笑顔で頷いた。
「はいっ。ありがとうございますっ!やっぱりお二人とも、優しくて大好きです」
「二人……か。まぁ、今日はいいか」
ディノスと目を合わせたリックは顔を緩め、肩を竦めた。




