名探偵の調査といじわると副船長の秘密
「うーん。ここには何もないようです」
大きなルーペを手に、近づけたり離したり。片目を閉じて超真剣。
「どういうことだ?」
今日は深緑のロングジャケットを羽織ったリックが壁に背を預け、足を組んで立っている。
ちょっと不機嫌なご様子。それもそのはず。
変な顔をしたディノスに連れられた彼女に会ったら、「幽霊かお化けか分かりませんけど、絶対に捕まえますっ!」といきなり言われた。
訳がわからずに、「ちょ、ちょっと待て」と追いかけたら食堂へ。
ジャンに何かを息巻いて話したと思ったら、料理長がウキウキとし始めてノリノリでどこかへ連れていってしまった。
料理長は娘のように思っているのが分かっていたし、すぐに戻すと言われたからディノスと二人で待っていた。
そうしたら、茶色のチェックで珍しいデザインのジャケットにお揃いの帽子を被り、伊達眼鏡をかけてルーペを片手に机にかじりつき始めた。
椅子に膝、片手をテーブルについて真剣にテーブルを眺め回す彼女に、
「何があったのか説明くらいしてくれないか?」
と言えば、ぷっくり頬を膨らませて、
「もぉーっ、邪魔しないでくださいっ!」
なんてぷりぷりと怒って返されてしまって、これの何処が不機嫌にならずにいられようか?
「どうなってるんだ」
「それが……俺にもよく分からん」
ディノスの答えに、更にイラッと来てしまう。
「大体、あの衣装は何だ?」
「船長。今まで隠していましたが俺は実は若い頃、探偵に憧れていましてね。結局料理人になっちまいましたが、形だけでもと買ってた衣装が残ってたんでぇ」
「それを持ってきてたのか……」
「あっはっは。お恥ずかしい話で」
「てか、その体のサイズだとあの華奢な体には合わなくないか?」
「若い頃ですから、もっとシュッとした体型だったんですよ。それでも彼女にはちと大きいみたいですけどね?」
言った側から肩がずり落ちて、レティが引っ張り上げた。
「活躍の場が出来て、あの探偵セットも報われましたよ。あのお嬢ちゃん、可愛いでしょう?」
「……」
「おや?好みじゃないなら脱がせますよ?」
リックが黙っていたので、料理長が言うと舌打ちをして答えた。
「まあ……、可愛いな」
「お前もバカになったな……」
「何っ!?」
それまで黙っていたディノスの一言で、リックのこめかみがピクピクと動く。
「ケンカ売ってんのか?」
「ったく。分かったから耳元で怒鳴るな」
元々冷静なディノスに落ち着き払って言われ、ため息をつかれた。
ここで感情任せに口を開くのは大人気ないと思い直し、ぐっと我慢する。
しばらく三人で様子を見守っていたが、座っていたディノスが立ち上がった。




