歌姫さんの探偵になる決心7
食事が終わってしばらくしたら、リックは呼ばれてディノスもいなくなってしまった。
食堂で暇を潰しても良いと言われたものの、邪魔になるような気がして甲板に出た。
(今日はまだ洗濯物がないのね)
上を見ながらそう考えていたら、食堂ではないドアが開く。
山盛りに積み上げられた洗濯物が入った洗濯籠が、幾つも運ばれてきた。
「あの、手伝っても良いですか?私、特にすることもないので」
運んできたクルーに声を掛けた所、「助かります」と笑顔で言われたので、シーツやバスタオルやタオルを何人かがかりで干した。
上から眺める海の景色も良くて、弾むような心で手際よく片付けた。
それも意外と早く終わってしまい、食堂のドアの窓を覗いてみると、何人かのクルーがテーブルで真剣に作業をしていた。それで気になって開けてみる。
ドアを開けたと同時に声が飛んできた。
「いっでぇえ!」
包丁を持ったまま、騒いでいる。
テーブルに散らかっているのは野菜の皮で、それで怪我したと分かって走った。
「大丈夫ですかっ!?」
走り寄ったらテーブルの上に木箱があり、その底には不器用に剥かれた野菜があった。
レティは両手を差し出した。
「見せてみてください」
「え……あ」
真剣な目付きに押されたクルーが手を乗せた。
「あまり深くはないみたいです。救急箱はありますか?」
医務室に行かなくても、ここは怪我するために持っているだろうと思い、厨房に目を向けた。
奥に入っていたジャンがレティの声に気がつき、顔を見せる。
「指でも切ったのかい?」
「はい。幾つか切ってしまってますね。ちょっと手当てします」
「放っておいてもいいよ。海の男なんだから」
「ダメですっ」
そう言いながら顔を上げれば、目の前に救急箱が置かれた。
「ありがとうございます……」
「お前ら、優しいお嬢ちゃんが居てくれて良かったな」
ジャンはからかっただけらしい。朝みたときのように、並びの綺麗な歯を見せて笑った。
「痛いですか?」
ぷっくり赤い血が滲んで垂れてきている親指を見て、レティは問う。
「いや、今はそうでもないけど。切った瞬間だけだな」
「可哀想な手。ちょっと失礼しますね」
「え!?」
周りのクルーが唖然とした。
小さな口が開いて、太い指の先が隠れたからだ。すぐに指は解放された。
「ひぇ……」
クルーが真っ赤になっているのには全く気づかず、レティは片手で器用に箱を開けて脱脂綿を指で挟み、消毒液を染み込ませた。それで労るように真新しい傷、塞がり掛けている傷を拭いた。




